「偶然の角」の一般化にむけて

【二等辺三角形から一般の三角形に】

京都教育大学附属高等学校 数学科 小宅 邦夫
藪内 毅雄

1.はじめに

かねてより、生徒から【図1−1】のような二等辺三角形の「ある角度θ」を求める問題を尋ねられことがよくあった。似かよってはいるがいろいろな問題に出会っていた。
 平成4年度京都府立高校の問作委員をしている折り、委員会の休憩時に教育委員会指導主事(数学)より「中・高生程度を対象にした解法を」との依頼があった。その問題は、次の【図1−2】のような一般の三角形を対象にした問題Tであった。

問題T 【図1−2】のような三角形ABCにおいて、∠DBC=30°、∠EBD=50°、∠BCE=40°、∠ECD=30°であるとき、∠DECは何度か。

 解き始めてみると、なかなかの難問で、その主事から「この問題に限らず一般的な解法があれば」との依頼もあり、同僚と相談し、京都教育大学坂下秀男名誉教授の論文『偶然の角』にであうに至った。
 これを、参考にして後述2.の解法にたどり着き、当時論文にまとめた。課題として、特に後半の依頼に答えられるようにと思考しつつ10年弱の月日が流れた。数年前に、本大学で現代数学の講義を担当したが、その際に、この論文を教材として扱った。そして、不思議なことに、問題Tと後述3.問題Uとの間に、実に奇遇であったが、密接な、ある関係があることを発見した。

2.問題Tの解法について

先ず、基軸としてCEをとらえて作図する。
【作図】下の【図2】のように、(1)△CEBと左右対称な△ECGの作成: ∠ECG=60°、∠CEG=40°となる点Gをとり、直線EGと辺BCとの交点をFとする。
(2)正三角形FCHの作成: ∠CFH=60°、∠FCH=60°となるHをとる。 
【解】△BECと△GCEにおいて EC=CE(共通),∠BEC=∠GCE(=60°),∠BCE=∠GEC(=40°)
ゆえに、一辺両端角相等により、△BEC≡△GCE
よって、BC=GE …@
(1)より、△FCE、△EBF,△CFGはいずれも二等辺三角形
ゆえに、BE=FE=FC=GC …A
(2)より、△FCHは正三角形  ゆえに、FC=CH=HF …B
よって、A、Bにより、△CHG、△FHEはそれぞれ二等辺三角形
したがって、∠EGH=∠EGC−∠HGC=80°―50°=30°
また、∠HEG=0.5×(180°−∠EFH)=0.5×(180°−40°)=70°…C
△BCDと△GEHにおいて、BC=GE(@より)
∠BCD=∠GEH(=70°) , ∠DBC=∠HGE(=30°)
ゆえに、一辺両端角相等により、△BCD≡△GEH  よって、CD=EH …D
また、△DECと△HCEにおいて
CD=EH(Dより)  EC=CE(共通)  ∠DCE=∠HEC(=30°)
ゆえに、二辺夾角相等により、△DEC≡△HCE
よって、x=∠DEC=∠HCE=20° (Q.E.D.)
 この解は、中・高生徒に理解できるとおもわれるが、尚、一般化の課題が残った。この課題克服に向けての関わりについては、後述の4.において述べる。

3.『偶然の角』についての紹介と検討

坂下名誉教授の論文は、灘高校、東大寺高校の入試や京都府立高校教員採用試験にも出題されている類のポピュラーな次のような問題からはじまっていた。
問題U 二等辺三角形ABC(AB=AC)
において、∠BAC=20°、∠CBD=60°、∠BCE=50°であるとき、∠BDEは何度か。
掲載の解
右の【図3―1】のように、辺AC上に点Fをとって,∠FBC=20°であるようにとると、△EBC、△FBC,△DBFはそれぞれ二等辺三角形になる。
したがって、BE=BC=BF=DF
また、∠EBF=60°、BE=BFであるから△BFEは正三角形
ゆえに、BF=FE=EB
よって、△FDEを考えると
FE=FD
∠EFD=180°―(80°+60°)=40°より、
∠EDF=0.5×(180°−∠EFD)=0.5×(180°−40°)=70°
したがって、θ=∠EDF―∠BDF=70°−40°=30°
(Q.E.D.)

実に、スマートなとても美しい解である。
これは、1922年10月に英国のThe mathematical gazetteという雑誌にM.Laugley氏が提示し、これを一般化したものを1975年6月にColin Tripp氏が提示している。
これによると、【図3―2】のようにa(∠A)、b(∠CBD),c(∠BCE)が与えられるとθ(∠BDE)が決まるが、中学校で勉強してきた初等幾何学で求まるかというと、それはむつかしく、高等数学の複素解析学が必要となる。(a、b、cが整数であってもθが整数度となることはまれである。)
Colin Tripp氏がコンピュータに、これらが整数になるときの角度を計算させたところ、次の表の53通りがでてきたと紹介されている。
【一覧表1】                    【単位は度】(斜体の数字は問題U)
a θ   a θ   a θ   a θ   a θ   a θ   a θ   a θ
4 46 4 2   4 46 44 42   12 72 42 6   12 72 66 30   28 52 28 14   28 52 38 24   56 59 31 3   56 59 56 28
8 47 8 4   8 47 43 39   16 49 16 8   16 49 41 33   32 53 32 16   32 53 37 21   72 39 21 12   72 39 27 18
12 42 18 12   12 42 30 24   20 50 20 10   20 50 40 30   36 54 36 18     72 42 24 12   72 42 39 18
12 48 12 6   12 48 42 36   20 60 30 10   20 60 50 30   40 55 35 15   40 55 40 20   72 48 24 6   72 48 42 24
12 57 33 15   12 57 42 24   20 65 25 5   20 65 60 40   44 56 34 12   44 56 44 22   72 51 39 9   72 51 42 12
12 66 42 12   12 66 54 24   20 70 50 10   20 70 60 20   48 57 33 9   48 57 48 24   120 24 12 6   120 24 18 12
12 69 21 3   12 69 66 48   24 51 24 12   24 51 39 27   52 58 32 6   52 58 52 26    

上記のような理想的な証明ではないが、問題Uにたいして、私の別解を提示し、なにか共通点があるのかを調べてみる。

【図3−3】のように、点Fを△FBCが正三角形となるようにとる。 …@
CFの延長と線分ABとの交点をGとすると、△FDGは正三角形であることを示す
∠DFG=∠BFC(対頂角)=60° …A
また、△BFGと△CFDにおいて
BF=CF(正三角形の辺) ∠GBF=∠DCF(=20°)
∠BFG=∠CFD(=120°)
ゆえに、一辺両端角相等により、
△BFG≡△CFD
よって、FG=FD …B
したがって、A,Bにより、△FDGは正三形であるといえる。
ゆえに、FD=DG=GF …C
また、∠BCE=∠BEC(=50°)より、△BCEは二等辺三角形
ゆえに、BC=BE …D
@よ り、BC=BF …E
D、Eにより、△BFEは二等辺三角形
よって、∠BFE=∠BEF(=80°)
したがって、∠EFG=∠BFG−∠BFE=40° …F
一方、△BCGにおいて、∠CGB=180°―(∠GBC+∠BCG)=40° …G
F、Gにより、△EFGは二等辺三角形
ゆえに、EF=EG …H
△EFDと△EGDにおいて
Hより、EF=EG  Cより、FD=GD  また、ED=ED(共通)
ゆえに、三辺相等により、△EFD≡△EGD
よって、∠FDE=∠GDE=0.5×∠FDG=0.5×60°
したがって、∠BDE=30°                     (Q.E.D.)

問題Uに関しては、この解と3.の美しい解と比較するとき、スマートさに差はあるが、共通点としては、正三角形と二等辺三角形に解法のキーがあるとおもわれることである。
これらが現れる順序に違いはあるが、たとえ、タイミングの違いがあっても、これらを必要としていることにはかわりない。
このことにより、中・高生徒による多様な解が期待できる。

4.「中学・高校生を対象にした新たな解法」への考察

問題U 二等辺三角形ABC(AB=AC)において、∠BAC=20°、∠CBD=60°、∠BCE=50°であるとき、∠BDEは何度か。
次いで、問題Tの前述2.における解法に沿って上の問題Uの解を考え、問題1の一般化に挑戦してみた。
(解)2.の解法と全く同様の手順で、今回は、基軸としてBDをとり【図4―1】のように作図する。
【作図】(1)△BDCと左右対称な△DBGの作成: ∠BDG=60°、∠DBG=40°である点Gをとり,線分BGと線分ACとの交点をFとする。
(2)正三角形FDHの作成: ∠FDH=60°、∠DFH=60°である点Hをとる。
【解】作図により、前述の2.の解法手順と全く同様にして、二辺夾角相等により  △DBE≡△BDH
この後も同様にして、θ=∠DBH=30°を得る。
(Q.E.D.)
中学生諸君は、右の図の中に2等辺三角形がたくさんあることを確認してください。

これより、問題Tと問題Uの解法の共通点となるポイントは基軸設定にあり、次いで、左右対称な三角形、正三角形、二等辺三角形の活用にある。

5.新たな解法の発見

さて、奇遇にも問題Tと問題Uとに密接な係わりがあり、この直接的な関連を用いた新たな解法について述べる。(ただし、三角形(ABC)は三角形(A)(B)(C)のことを示すものとする)

問題T 三角形(ABC)において、∠(DBC)=30°、∠(EBD)=50°、∠(BCE)=40°、∠(ECD)=30°であるとき、∠(DEC)は何度か。
(発見した解)【図4ー2】のように、問題Uの二等辺三角形ABCにおいて、2直線DEとCBの交点をFとする。
問題U解法の結果θ=30°であることより
∠FCD=∠FCE+∠ECD=50°+30°=80°
∠FDC=∠FDB+∠BDC=30°+40°=70°
ゆえに、∠CFD=180°−(∠FCD+∠FDC)=30°
よって、△FCDは【図4−2】のように△(ABC)と同じものであることより
∠EBD=∠(DEC)
したがって、∠(DEC)=20°(Q.E.D.)

まさに、【二等辺三角形から一般の三角形に】が実現されているといえる。
このようにして、二等辺三角形を対象にした53種全てに関して、一般の三角形に応用、できるといえる。

5.「問題Tを含めた一般的な解法」のまとめについて

前記3.に掲げた一覧表にある53通りの二等辺三角形の(a、b、c、θ)を求めることができることより、【図5―1】の2直線CBとDEの交点をFとすると、これに対応する一般の三角形FCDにおける偶然の角xを特定することができる。これと全く同様にして53種の一般の三角形における「偶然の角」を一覧表の整数(x)のように求めることができる。
x=0.5×(180°− a)―b により、xは次の【一覧表2】のようになる。
【一覧表2】               (斜体の数字は問題U)  【単位は度】
a θ x   x a θ   a θ x   x a θ   a θ x   x a θ
4 46 4 2 42   42 4 46 44 42 20 50 20 10 30   30 20 50 40 30   44 56 34 12 12   12 44 56 44 22
8 47 8 4 39   39 8 47 43 39 20 60 30 10 20   20 20 60 50 30   48 57 33 9 9   9 48 57 48 24
12 42 18 12 42   42 12 42 30 24 20 65 25 5 15   15 20 65 60 40   52 58 32 6 6   6 52 58 52 26
12 48 12 6 36   36 12 48 42 36 20 70 50 10 10   10 20 70 60 20   56 59 31 3 3   3 56 59 56 28
12 57 33 15 27   27 12 57 42 24 24 51 24 12 27   27 24 51 39 27   72 39 21 12 15   15 72 39 27 18
12 66 42 12 18   18 12 66 54 24 28 52 28 14 24   24 28 52 38 24 72 42 24 12 12   12 72 42 39 18
12 69 21 3 15   15 12 69 66 48 32 53 32 16 21   21 32 53 37 21 72 48 24 6 6   6 72 48 42 24
12 72 42 6 12   12 12 72 66 30   36 54 36 18 18   72 51 39 9 3   3 72 51 42 12
16 49 16 8 33   33 16 49 41 33   40 55 35 15 15   15 40 55 40 20 120 24 12 6 6   6 120 24 18 12
丹後教授の論文に、各一覧表の左右対照(a、b、c、θ):(a、b、b―θ、b―c)の紹介がある
いずれのxも等しいことが面白い。
AB=AC、頂角aの二等辺三角形ABCを考える。
∠DBC=b、∠ECB=c、∠EDB=θとする。
【図5−2】のように、FDとBC、EDとBGがそれぞれ平行となるF,Gを辺AB,AC上にとる。
ここで、三角形における平行線と比の性質を用いるとFGとECが平行といえる。
3組の平行線の錯角はそれぞれ等しいので、AB=ACを加味して、∠FCB=b∠DBG=θより、
∠GBC=b―θ
∠FCE=b−cより∠GFC=b−c
さらに、b−θ<bより三角形ABCを左右に裏返すと(a,b、b−θ、b−c)を得る。
さて、53通りの二等辺三角形に対して、「偶然の角」である整数θが存在する。
それに加えて、それらから導かれる53通りの一般の三角形に対して、「偶然の角」である整数xが求められることを紹介した。
しかし、一般の三角形のなかには、二等辺三角形になるものが14通り(【一覧表2】の赤字の数字)ある。
よって、実際には導かれるものは39通り存在する。
右の【一覧表3】はそれらを列挙したものである。
 ただし、【図5−1】の三角形FCDを三角形(ABC)に見立てると、次のようである。
∠(BAC)=∠DBC―∠EDB
 ∴ a  = b−θ
∠(CBD)=∠ACB−∠ECB
 ∴ b  =(90°―a/2)―c
∠(BCE)=∠BAD+∠ABD=a+x 
 ∴ c  =a+(90°―a/2)―b
A=a = b−θ
B=∠ACB=90°―a/2
C=∠EDB+∠BDC=θ+90°+a/2―b
【一覧表3】
一般の三角形 本になる
2等辺三角形
  一般の三角形 本になる
2等辺三角形
  一般の三角形 本になる
2等辺三角形
x a θ   x a θ   x a θ
44 88 48 84 46 42 4 46 4 2   41 82 57 66 49 33 16 49 16 8   33 66 81 18 57 9 48 57 48 24
43 86 51 78 47 39 8 47 8 4   60 80 40 55 35 15 20 65 25 5   32 64 84 12 58 6 52 58 52 26
66 84 30 63 27 15 12 69 21 3   60 80 40 30 30 10 20 70 50 10   31 62 87 6 59 3 56 59 56 28
66 84 30 42 24 12 12 72 42 6   50 80 50 50 40 20 20 60 30 10   42 54 84 30 78 6 72 48 24 6
42 84 54 72 48 36 12 48 12 6   40 80 60 60 50 30 20 50 20 10   42 54 84 15 75 3 72 51 39 9
54 84 42 42 30 18 12 66 42 12   50 80 50 20 30 10 20 70 60 20   30 54 96 30 84 12 72 42 24 12
30 84 66 66 54 42 12 42 18 12   30 80 70 30 40 20 20 60 50 30   27 54 99 33 87 15 72 39 21 12
42 84 54 51 39 27 12 57 33 15   25 80 75 20 35 15 20 65 60 40   39 54 87 12 75 3 72 51 42 12
42 84 54 30 30 18 12 66 54 24   39 78 63 54 51 27 24 51 24 12   24 54 102 15 84 12 72 42 39 18
33 84 63 42 39 27 12 57 42 24   38 76 66 48 52 24 28 52 28 14   21 54 105 27 87 15 72 39 27 18
18 84 78 54 54 42 12 42 30 24   37 74 69 42 53 21 32 53 32 16   24 54 102 12 78 6 72 48 42 24
42 84 54 18 24 12 12 72 66 30 35 70 75 30 55 15 40 55 40 20   18 30 132 18 126 6 120 24 12 6
21 84 75 18 27 15 12 69 66 48   34 68 78 24 56 12 44 56 44 22   12 30 138 12 126 6 120 24 18 12

6.今後の課題

また、整数の枠をはずせば、ジャバを用いて、無数の「偶然の角」である実数θと実数xの関係を右の図のように見ることができる。今後はこのジャバを自由に取り扱えるように技術を習得し、一層この研究を深めて、そのとりまとめにつとめていきたい。
ジャバによる【操作1】上の【図6】において、二等辺三角形ABCの頂点Aを、底辺と垂直方向に上下移動することにより、あらゆる二等辺三角形を対象にすることができる。
【操作2】異なる等辺上の2点D,Eをそれぞれの辺上に沿って移動することにより、一般の三角形を対象にすることができる。
以上の操作により、(a、b、c、θ)が連動して変化し決定する。また、それに伴ってxが変化し決定する。

上記の【操作1】、【操作2】の意味は、京都教育大学丹後教授の『丹後のページ』(http://homepage2.nifty.com/tangoh/)の図形に関する証明の中で使われているボタンによる図形変形のことです。興味をお持ちの方は、そちらもご覧下さい。

7.おわりに

 最後に、京都教育大学丹後教授の『丹後のページ』を紹介しておきたい。坂下名誉教授の『偶然の角』は初等幾何学を用いた証明・考察であり、丹後教授の「偶然の角度」は、初等幾何学、三角関数による証明を含み、さらには高等数学を駆使した前述の53通り全ての証明である。
 これは、複素数を用い、いくつかの定理を展開して、その解法を述べたものである.
 教授のホームページには、興味深いものがたくさん紹介されている.これに関心を寄せられる先生方は、是非、丹後教授の下記ホームページ『丹後のページ』をご覧いただきたい。

『丹後のページ』ホームページ先
  http://homepage2.nifty.com/tangoh/

【参考文献】
1.京都教育大学坂下名誉教授論文:『偶然の角』
2.京都教育大学丹後教授論文:複素数と初等幾何Chapter3.単位円の幾何学「偶然の角度」
その他
【協力していただいた先生方】
京都教育大学教授     丹後 弘司氏
京都府立高等学校校長   勝間 喜一郎氏
京都府立高等学校教諭   谷本 義和氏
京都府立高等学校教諭   石井 努氏
京都教育大学附属高等学校 河崎 哲嗣氏