Team-Teachingとコンピュータを活用したライティングの指導

 

 

               高田哲朗(京都教育大学附属高等学校)

 

                      

1. はじめに

 1996年度より3年連続で2年生のライティングを担当する機会を得た。その間、コンピュータやALTとの協同授業を取り入れながら、授業のやり方を毎年かなり大きく軌道修正してきた。しかし、この3年間を通じて次の点は常に頭の中に置いてきたつもりである。

     生徒自身が書きたいことを書ける力(自己表現力)を養成したい。

     コミュニケーションの手段としての書く力を養成したい。

この2つを実現するために、普段の授業で力を入れて取り組んできたことは次の5点である。

1)sentenceレベルの指導に留まらず、paragraphレベルの指導を行 

  う。

     「読み手を意識して書く」機会を与える。

     限られた時間内にできるだけ多くの量を書かせる。

     4技能の関連の中で書く活動を位置付ける。

     ライティングのプロセスに注目する。

本稿では、過去3年間のライティングの授業を振り返りながら問題点を明らかにすることにより、これからのライティング指導の方向について考えてみたい。

 

. 過去3年間のライティングの授業の取り組み

 

.1. 1996年度---教科書重視とインターネットの活用

この3年間使用してきた教科書は、POLESTAR WRITING COURSE(数研出版)であり、併せて教科書準拠のワークブックを用いてきた。96年度は「この教科書を最大限に活用すること」と、ちょうどその頃自宅のパソコンからインターネットが利用できるようになったので、「e-mailを活用してライティング指導を行うこと」、の二つを目標にした。当時、勤務校にはインターネットが導入されていなかったが、1クラスの生徒人数分の台数のパソコンが揃っているコンピュータ室は設置されていたので、その部屋を利用した授業も試みることにした。この年度の実践の詳細については、拙稿(京都教育大学附属高等学校研究紀要第62号)を参照されたい。

96年度の実践の最大の成果は、インターネットを用いるなどの方法で、(教師にではなく)相手を意識して英文を書く機会を何度か提供できたことであろう。この方向での実践は、本校にインターネットが導入されてから本格的に行いたいと考えている。一方、問題点として挙げねばならないことは、ライティングの授業で中心を成すべき「英文を書く」活動に充てる時間があまり多く確保できなかったことである。その原因として考えられることは、ア)徹底的なインプットを求めるあまり、毎時間暗唱の確認テストまたは語彙の小テストを実施し、イ)テープを用いた聞き取りでの導入、聞き取った内容を書く活動に発展させる活動、インプットした表現を会話の場面でペアワークさせる活動などを、ほとんど毎時間行い、さらに、ウ)ワークブックを担当制にしてすべてやらせたことなどにより、様々の活動からなる盛り沢山の授業ではあったが、2単位という限られた時間の中では、極めて余裕のない授業展開になってしまったことである。

 

.2. 1997年度---TT (6回に1回)とコンピュータ

97年度は、急にALTのための予算増額の要求が認められ、これまでのオーラル・コミュニケーションに加えて、1学期の後半からライティングの授業でもTeam-Teachingを実施することになった。年度途中のために時間割上の制約もあり、各講座とも公平に実施できるようにと考えた結果、週2回の授業の内の1回を、3週間に1回Team-Teachingで進めることになった。Solo-Teachingの時間は、ワークブックで扱う部分を減らしたこと以外は、前年度とほぼ同じように授業を展開した。Team-Teachingでは、その時間だけ特別なことをするのではなく、普段一人でやっている授業内容をALTと協力しながら行うことで一層充実させるようにした。Team-Teachingの時間の基本的な流れは次のようになっている。

 Team-Teaching が、教科書のある課の1時間目に当たった場合:

 1時間目 (1)前課の Words & Phrases の小テスト

      (2)モデル文の導入(テープではなくALTの音読による

                   聞き取り)

      (3)モデル文の説明(JTEの説明にALTが補足する)

      (4)Key Expressions の確認(JTEの説明にALTが補足

                   する)

      (5)Drill 1(ALTにinformantとして活躍してもらう)

       注: Try(or For Communication)はSolo-Teaching 

          で行う。

 Team-Teaching が、ある課の2時間目に当たった場合:

 2時間目 (1)モデル文の暗唱確認(小テストにする場合もある)

      (2)Drill 2 & 3(ALTにinformantとして活躍してもら

                   う)

      (3)Exercise 2(黒板でALTと共に添削)

      (4)Exercise 3 / 課題作文(ALTにinformantとして活

                   躍してもらう)

      (5)ワークブック / 課題作文(ALTにinformantとして

                   活躍してもらう)

       注: Exercise 1 ( テープを用いた聞き取り) はSolo-  

                   Teachingで行う。

97年度の成果は、Team-Teachingでライティングの授業を行う基礎つくりができたことである。特に、黒板での添削や類似表現のニュアンスの違いの説明などでは、ALTの協力はたいへん有効であることがわかった。とは言え、3週間に1回の授業では回数が少なく、どうしても継続性に欠けるので、生徒に実際どれくらい効果があったかについては、やや問題が残った。

 

.3. 1998年度---TT(2回に1回)と課題作文重視

98年度は、年間を通じて毎週1回Team-Teachingを実施することが可能になったので、前年度の問題点を解消するために、生徒の書く力の養成という観点から過去2年間の授業の見直しをすることにした。その結果、Team-Teachingは次のような流れで授業を展開することにした。なお、Solo-Teachingも基本的に同じ流れで展開した。

 Team-Teaching が、教科書のある課の1時間目に当たった場合:

 1時間目 (1)モデル文の導入(テープではなくALTの音読)

      (2)モデル文の説明(JTEの説明にALTが補足する)

      (3)Key Expressions の確認(ALTが各表現のSpeech

                   Levelや使い方の違いなど教科書に書いていない情

                   報を中心に補足説明する)

      (4)Drill 1(ALTにinformantとして活躍してもらう)

       注: Try(or For Communication)は授業で扱わない。

 Team-Teaching が、ある課の2時間目に当たった場合:

2時間目 (1)Drill 2 & 3(ALTにinformantとして活躍してもら

                 う)

      (2)Exercise 2(黒板でALTと共に添削)

      (3)ワークブック / 課題作文 (ALTにinformantとして

                   活躍してもらう)

       注:Exercise 1と3は授業で扱わない。その代わりに、

                   Paragraph Writingの時間をできるだけ多くとるこ

                   とにした。

このように、ペアワークや聞き取りなどの活動をカットして、授業で扱う教科書の内容を思い切って絞り込むことによって、いわゆる自由英作文の時間をできるだけ多く確保することにした。1年間に実施した課題作文のテーマは次のようになっている。

1)My Dream  2)Advantage and Disadvantage  3)School Festival  4)School Rules and Freedom  5) In 27 Years  6) Environmental Issues (I Know I Should, but I Dont)  7)New Years Day in Japan  8)My Room  9) My       Experience

また、Speed Compositionと称して、誤りを恐れずできるだけ速く書く練習も何度か試みた。さらに教科書やワークブックの和文英訳の問題を黒板に書かせて添削する時間も、これまでより長い時間をかけてじっくり行った。

98年度の成果は、毎週1回のTeam-TeachingでALTとJTEが協力することによって、これまでSolo-Teachingでは越えられなかった壁を越えることができたことである。具体的には、作文の添削や授業内の個別指導で生徒から出るさまざまの質問に、即時的かつ的確に答えることができるようになったこと、表現のニュアンスの差などをALTとJTEのやり取りの中で、例を示しながら効果的に説明できるようになったことである。年度当初の4月と年度末の3月に実施したアンケートから英文を書くことについての生徒の意識の変化を見てみよう。

次の棒グラフは、担当した2クラスの生徒(80人)に1「あなたは英語で文章を書くのが好きですか。」と、2「あなたは英語で文章を書くのが得意ですか。」とを尋ねた結果である。

<グラフ1>


<グラフ2>


グラフ1から、1年間のライティングの授業の結果、英語で文章を書くのが好きと答えた生徒が増加し、嫌いと答えた生徒がかなり減少したことがわかる。実際、生徒の書いた作文を見ていてはっきり言えることは、年度当初から2学期、3学期と進みにつれて書く量が飛躍的に増加していることである。(資料参照)これは、課題作文を継続的に実施する (fluencyを重視する) 授業を行ってきた成果であろう。しかし、グラフ2が示すように、英語を書くことが得意だと答えた生徒の数にはほとんど変化がなく、苦手と答えた生徒がやや減少した程度であった。これは、fluencyを重視するあまり、基本的な表現や語彙の定着をはかる (accuracyの) 指導がやや不十分であったため、自分の書いた英文に自信をもたせることができなかったことによるのだろう。この点は98年度の問題点であると言える。

 

3. Team-Teachingについて

 

 3.1. 生徒の意識(アンケートから)

ライティングの時間でのTeam-Teaching について年度末に実施したアンケートで、「週1回ダナ先生とTeam-Teachingをやりましたが、どうでしたか。」と尋ねたところ次のような結果を得た。


<グラフ3> (2クラス80名についての結果)

Team-Teachingは圧倒的多数の生徒から支持されていることがわかる。また、よかったと思う理由を尋ねたところ、「教科書に書いてない表現が学べる。」「日本人にはわかりにくいニュアンスがわかった。」「堅苦しい表現ではなく口語的な表現が学べた。」「眠くならない楽しい授業だった。」などの答が多数見られた。

 

.2. 課題

上のアンケートで、「よくなかった」と答えた生徒がその理由としてあげている点をあげてみると、「内容がむずかしい。」「十分利用できなかった。しかし、面白い話が聞けて楽しかった。」「実際には通じることでも入試などのテストでは×されたりするからややこしくなった。」「面白かったけど情報が多くてたいへんだった。」などであった。振り返ってみると、表現のニュアンスの違いの説明や黒板での添削の際、ややもすれば高度な内容に時間を使い過ぎてしまうきらいがあり、その点で生徒の実態に即していない面があったのではないかと反省している。

 

4. コンピュータ室での授業について

 

 .1 生徒の意識(アンケートから)

 コンピュータ室での授業について、年度末に実施したアンケートで「1学期と3学期には、コンピュータ室で文書作成をやりましたが、どうでしたか。」と尋ねたところ次のような結果を得た。


 <グラフ4> (2クラス80名についての結果)

大多数の生徒がコンピュータ室での授業を「よかった」と答えている。その理由は次のようなものである。「出来上がった英文を見たらすごい充実感があった。」「コンピュータを使うのは楽しかった。」「修正とかが簡単なので、気楽に英文が作れる。」「自分で打っているうちに間違いに気付いたりしたのでそれがよかったと思う。」「文が見やすくて校正がしやすい。」「英語とコンピュータの勉強ができて一石二鳥だと思う。」

 

.2 課題

上のアンケートで「よくなかった」と答えた生徒がその理由としてあげている点は次のようなものである。「二度手間であまり意味がないように思われる。」「しっかりした下書きができていなくて、コンピュータで打つ時に苦労した。」「時間が足りなかった。」

コンピュータ(ワープロ)に慣れている生徒とそうでない生徒の差が大きいので、下書きがないとパソコンに不慣れな生徒は英文作成とパソコン使用の両方で苦しい思いをするだろうと考えて、普通教室で下書きをさせてからコンピュータに打ち込ませるようにした。しかし、コンピュータを用いるメリットの一つは、生徒がアンケートの中で答えていたように、修正が容易なので気楽に英文を作成できることであり、むしろ下書きなしで最初からコンピュータで作文させるべきだったのではないかと思われる。

 

. これからのライティング指導の方向

 

 5.1. ライティングの授業で養成すべきライティングの力とその指導法(部分英訳、和文英訳、正序、空所補充、書き換えと, いわゆる自由作文のギャップから)

従来から、ライティングの教科書の練習問題の大半は、部分英訳、和文英訳、正序、空所補充、書き換えなどであった。また、現行の教科書ではパラグラフ作文が重視されるようになったとは言え、それを中心に据えてライティングを練習させるように作られているわけではない。そのような教科書で教えていて思うことは、ほとんどの生徒は、練習問題にはかなり正確に答えられているのに、パラグラフ作文をさせると、極めて誤りの多い英文を書くことが多いということである。作文の誤りを見ていると、中学レベルの英文法の知識すら身についていないことがよくあり、練習問題といわゆる自由作文とのギャップの大きさに驚くことがよくある。今後は、練習問題をたくさん解かせるより、テーマを与えてパラグラフ作文を書かせ、出来上がった作文を教材にして、文法面、語彙面、パラグラフの構成法などの観点から指導することをライティング指導全体の中心に据える方が、生徒の実際の書く力に基づいて効果的に指導できるだけでなく、生徒の自己表現力を伸ばす近道なのではないかと思われる。

 

 5.2. 誤りの分析

1)5.1.で述べたような指導に変えた場合、生徒の書く英文の誤りを分析し、それらを教材化していくことが求められる。多くの生徒が共通して間違う点をまとめ、全体指導の中で取り上げることは極めて有効であろう。

2)パラグラフ・ライティングの指導法

さらに、文レベルの指導だけでなく、パラグラフ以上のレベルでの指導を充実させる必要がある。パラグラフの展開法やつなぎ表現などの系統的な指導を工夫することが必要である。

 

 

 

 

 

参考文献:

朝尾幸次郎・斎藤典明.1996.『インターネットと英語教育』大修館書店.

岩村圭南.1995.『インターネットで英語学習』アルク.

上村妙子・大井恭子.1992.『レポートライティング』日本英語教育協会.

尾関修治他.1997.「インターネット時代が日本の語学教育に求めるもの」

     『語学ラボラトリー学会第37回全国研究大会発表論文集』語

      学ラボラトリー学会

金谷憲・谷口幸夫1994.『ライティングの指導』研究社出版.

近藤真.1996.『コンピューター綴り方教室』太郎次郎社.

斎藤栄二.1996.『英語授業レベルアップの基礎』大修館書店.

野口悠紀雄.1997.『「超」勉強法 実践編』講談社.

橋内武.1995.『パラグラフ・ライティング入門』研究社出版.

羽柴正市.1969.「英文構成の考え方」『書く・話す・聞く英語』研究社

      出版.

早稲田大学文学部情報化検討委員会編.1998.『インターネットで変わる英

      語教育』早稲田大学出版部. 

高田哲朗.1994.「英語UCからライティングへの転換を目ざして」

           『CHART NETWORK No.12』数研出版.

高田哲朗.1997.「ダイナミックなライティング指導の試み」『京都教育大

      学附属高等学校研究紀要第62号』


戻る