効果的な教育実習をめざして

             〜英語科の場合〜            
京都教育大学教育学部附属高等学校英語科  高 田 哲 朗

 

1.はじめに

 以前は「教育実習」と言えば、毎年1学期に実施される4回生実習のことを専ら意味したが、ここ数年で制度が様変わりした。まず、3回生で本実習が行われるようになったことがあげられる。また、2回生で実施される「観察実習」、「参加実習」や3回生の前期(高校では1学期)に行われる「オリエンテーション」、夏休み中の「直前オリエンテーション」など、実習生が本実習までに附属にやってくる機会が増えた。本実習の時期が9月になったことも小さくない変更の一つである。さらに、副免実習や母校実習が1学期に行われるようにもなり、1年中何らかの形で実習に関わるようになった。

このような教育実習をめぐる一連の制度的変化は、当然のことながら、教科での実習のあり方にも少なからぬ影響を与えている。そこで、このような変化を踏まえて、教科(英語科)における教育実習をめぐる諸問題を概観して、今後のよりよい教育実習のあり方について考えてみたい。 

 

2.現状分析

2.1 オリエンテーション(本実習まで)

1)参加実習・・・2回生で実施されるもので、実習生が文化祭や体育祭、環境整備、研究大会などの附属学校の行事に補助員として参加するものである。3回生で高校での実習を予定している学生は、原則として高校で参加実習をすることになる。実習生にとって、附属高校の雰囲気や生徒、教官の様子などを知るよい機会であるだろうし、附属の教官にとっても、実習生を知るチャンスのはずである。

しかし、現実には教科担当者が同じ教科の実習生と接触することはあまり期待できない。少なくとも筆者にとって、これまで、参加実習を通じて、英語の実習生と接触したことは一度もなかった。せっかく高校にやってきて活動を共にするわけだから、実習生と教科の担当者が知り合いになることが可能なように、実習生の配置が考えられてもよいのではないだろうか。筆者の場合、かつて環境整備で実習生と一緒にグランドの草取りをやりながら、出身高校や大学の勉強について話を聞いたり、逆に実習生から附属高校生について尋ねられたりしながら、お互い知り合いになった経験をもっている。しかし、その学生は英文科の学生ではなく、3回生実習で担当することはなかった。

 

2)観察実習・・・学校行事や教科の授業を観察する機会として設けられたものである。学校行事の方は、実習生が一歩距離をおいて行事を観察しているといった様子で、教科担当教官と実習生が接触する機会は特に設定されていない。筆者の場合、これまで一度も英文科の学生と接触することはなかった。参加実習同様に、観察実習も、実習生と教科担当教官が知り合う機会として、もっと活用されてよいのではないかと思われる。

   一方、授業の観察実習の方は、これまで、授業を1〜2コマ程度参観してもらうことと、教科担当者全員との顔合わせの機会を持つことの二つが主な内容であった。ここで事実上初めて、実習生と教科担当教官が知り合うことができるわけである。平成13年度の実習生の場合は、2回生の後期、高校の3学期の終わりの2月末に実施した。2年のライティングの授業を見学してもらい、顔合わせでは実習生と教官がお互い自己紹介して知り合うことができた。

授業参観については、いくつか問題点がある。一つは、どの授業を見てもらうかである。これまでは、観察実習の実施日時にたまたま授業のある講座を見学してもらうという形をとっていた。しかし、結果的には、観察実習の数ヵ月後に実施される3回生実習オリエンテーションでも、同じ科目を見学してもらったということもあった。観察実習と3回生オリの両方を視野に入れて授業公開の計画を立て、偶然そのときにやっている授業ではなく、積極的に見てもらいたい授業を見学してもらうようにするべきではないだろうか。また、ただ見学してもらうだけではなく、授業見学の前に、担当者から見学のポイントを説明する時間を持つことや、見学後に観察したことをフィードバックする機会を短時間でも持つことが必要であろう。そのためには、時間割変更なども考慮する必要があるだろう。

3)3回生オリエンテーション・・・6月に3日間実施されるもので、平成13年度の場合、次のような内容で実施された。

 6.18(月) 8401100 全体オリエンテーション

        11101230 教科別課題による討議

        13301700 教科別オリエンテーション

 6.19(火) 8401230  全体オリエンテーション

        13301700 教科別オリエンテーション

 6.20(水) 840 930 全体オリエンテーション

         9301700 教科別オリエンテーション

 

この中で、教科に関わる部分について、内容を詳しく見てみよう。

 ア)教科別課題による討議・・・次のようなテーマに関して、英語の実習生の間で討議し、各自がその討議を踏まえて、まとめのレポートを提出する。

 (テーマ)1.今の英語教育の問題点とその改善策(大学で学んできたことを踏まえて)

2.自分は実習中に特に何にチャレンジしてみたいか。

テーマに関して言うと、1は、やや漠然としており、まだ授業の経験のない3回生には、議論しにくかったように思われる。2も、お互いの考えを交流するだけで終わり、1,2を通じて、議論はそれほど深まらなかったようである。もう少し具体的なテーマで、活発な議論が期待できるものを考えるべきだろう。

  イ)教科別オリエンテーション・・・以下のような内容で実施した。   

  6.18(月)13301700

   5限  授業見学 (2年4組・ライティング 磯部先生担当)

   6限  5限の授業について(磯部先生)

       顔合わせ、担当教官・担当科目発表・教科書、副読本渡し

       担当教官との打ち合わせ

   放課後 教科別課題による討議レポートの作成

 6.19(火) 13301700

  5限  教科書の通読

  6限  教科書の通読

  放課後 担当科目のテープのダビング、マニュアルのコピー

      担当者との打ち合わせ(続き)、教科書の通読

 6.20(水) 9301700

  2限  授業見学 (2年4組・英語U 島先生担当)

  3限  2限の授業について(島先生)

  4限  授業見学 (1年4組・オーラル・コミュニケーション 境先生担当)

  5限  4限の授業について(境先生)

  6限  教科書の通読

  放課後 授業見学のレポート作成

   以上のような内容で、教科としてのオリエンテーションを実施した。問題点を整理してみよう。

 a) 授業見学・・・観察実習のところでも述べたが、偶然その日時に入っている授業を見学してもらったので、2月の観察実習の時と同じライティングを再度見学してもらうことになった。また、担当の磯部先生は、ホームルーム担任であり、ショートホームルームを終えて慌しく授業に行かねばならず、授業前に実習生と言葉を交わす暇もなかったのが現実である。従って、見学のポイントを伝えることもできなかった。せっかく授業を公開するわけだから、担当者が少しはよい条件で授業ができるよう、また、実習生も授業で何を見るかを頭において見学できるように、できれば時間割上の配慮をしてもらえればと思う。

 授業見学を、今年度は3コマとったが、もう少し多くの授業を見学させるほうが、実習生には勉強になるのではないだろうか。また、高校のさまざまな授業を知るという意味で、1、2年の授業だけでなく、3年の授業も見学させてはどうだろうか。

 b) 担当教官・担当科目発表など・・・以前は、実習期間の初日に担当教官・担当科目を決めていたのだが、6月にオリエンテーションが行われるようになってから、この時期に決定するようになったので、実習生は本実習までの2ヶ月余りを、自分の担当する課やクラスを頭においた実習の準備に使えるようになった。その意味で十分教材研究ができるようになったと言える。大学生の学力不足が言われる昨今、準備期間が長くとれるのは望ましいことであろう。その期間に教材研究の実があがるように、どのようにして教材研究すればよいのかについて、この時期にしっかり指導しておくことが必要だろう。オリエンテーションから実習までの間に、自ら進んで高校に足を運び、自分が担当する講座の授業を見学したり、授業の進め方について担当教官と打ち合わせたりする実習生もいたが、これは熱心さの表れであり、大いに歓迎すべきことである。

 c) 教科書通読など・・・今年度は、1年間の学習内容全体を見渡した上で、自分の担当する課を教えてほしいという観点から、教科書通読の時間を多くとった。しかし、これは実習生が各自で実習までにできることであり、オリエンテーション期間中の課題としては時間をとりすぎたように思われる。附属に来ている時しかできない課題を工夫して与えるべきだろう。たとえば、授業見学を増やし、それについて深める時間を多くとるのはどうだろうか。また、実習生と担当教官が直接交流する時間を多くとり、実習生にとっては不安を減らし、疑問を解消する場として、一方教官にとっては実習生を理解する場とするのはどうだろうか。

 4)直前オリエンテーション・・・2学期開始直前の夏休みの終わりに、直前オリエンテーションが行われる。これは全体で実施されるもので、教科とは直接関係はない。

 

2.2 3回生実習(本実習)

 1)実施時期・日数・・・今年度は、9月3日(月)から9月26日(水)に行われた。この時期は文化祭(3日間)がある関係で、実質的な授業日数は16日であった。文化祭という大きな行事を通して、普段見られない生徒の活動をつぶさに見て、生徒の理解を深めることができるという点はよいのだが、教科での実習指導という点から言えば、16日は余りにも少ないように思われる。やる気のある実習生にとっては物足りないという印象をもったことだろう。  

 2)担当のしかた・・・英語科では、これまで一人の実習生が2学年に渡って、2種類の科目(3単位ものと2単位もの)を担当し、二人の教官で一人の実習生を指導することを原則にしてきた。実際に、実習生の担当時間割を組むとき、実習生ができるだけ多くの授業を担当できることを最優先にし、その結果として、教官の負担のアンバランスには目をつぶってきた。今年度の担当は次の表のようになっている。

実習生

担当クラス(3単位)

指導教官

担当クラス(2単位)

指導教官

時間数

A(女)

英語T(1−1)

ライティング(2−5)

高田

17

B(女)

英語T(1−3)

ライティング(2−2)

高田

16

C(男)

英語U(2−3)

OC (1−4)

16

D(男)

英語U(2−2)

OC (1−1)

築山

16

E(男)

英語T(1−4)

橋本

ライティング(2−4)

高田

12

        <平成13年度3回生実習担当表>

 3)指導の実際・・・上の担当表のように、筆者は、今年度2年のライティングで3人の実習生を担当した。以下に、具体的にどのように実習生を指導したかを述べる。

  @授業見学

2学期最初のライティングの授業を、実習生に見学してもらう時間とした。各実習生は自分の担当するクラスの授業しか見学しなかったが、同じ課の授業とは言え、クラスの雰囲気がまったく異なり、進め方も少しずつ変えているので、担当していた3クラスとも見学してもらったほうがよかったかもしれない。また、見学からしっかり学んでくれるように、「授業見学のレポート」のようなフォームを作成して、提出させるようにしたほうがよかっただろう。(注1参照)6月のオリエンテーションで、授業の流れについては説明済みだが、実際に授業を見てもらった後で、再度進め方を確認し、授業をする際の注意点を説明した。その際、「授業見学のレポート」を書いてもらっておけば、もっと深い話ができたかもしれない。

  A授業の部分的担当

    2年のライティングは週2時間のうち、金曜日の時間はALTとのティーム・ティーチングで進めている。最初から実習生にALTとティーム・ティーチングをしてもらうのは困難が予想されるので、まず、2学期最初のティーム・ティーチングでは、授業の初めに行うsmall talkの部分で、実習生も加わって3人で行うようにした他、教科書のExerciseの答えあわせの部分(約10分)をALTと一緒に指導してもらうようにした。実際には、ティーム・ティーチングというより、トリプル・ティーチングと言った方がよいやり方で行った。即ち、筆者は後ろで見ているのではなく、教室の横に立ち、必要があればいつでも割り込むようにしながら、基本的にはティーム・ティーチングのスタイルで授業を行ってもらった。実習期間中のティーム・ティーチングの時間は、ずっとこのやり方で行った。

  B授業全体の担当

    実習の2週間目から、ティーム・ティーチングでない時間は、50分全体を一人で担当してもらった。時間が許せば、スモール・ステップで少しずつ担当してもらう部分を延ばしていく方がよいのだろうが、実習生の担当するライティングの時間数は、ティーム・ティーチングを除くと2〜3時間と極めて少ないので、一挙に50分間を担当してもらうことにした。最初の時間には、生徒の掌握の仕方、声の大きさ、話す速度、間のとり方、視線の投げ方、説明の分量、板書の仕方、指名の仕方、英語の発音、Class Room English、テープレコーダーの使い方、机間指導の仕方など、基本的なことを中心に指導した。次の時間には、小テストの仕方、授業にめりはりをつけるためのやり方、リスニングを重視した活動の仕方、ペア・アクティビティの方法、英作文添削の方法、授業の雰囲気作りなどについて指導した。実習生は、3単位の科目でも指導を受けていることもあるが、全体的に見れば、1時間授業をする度に、見違えるほど授業がよくなることが多い。前回の授業の問題点を改善するために新しいことを試みようというやる気のある実習生の場合は、とりわけそうである。しかし、少ない授業回数のため、1回で非常に多くのことを指導するあまり、細かい部分を見れば、まだまだ多くの問題点は指導しきれずに改善されないまま残ってしまう。このように少ない授業時間では、残念ながら上滑りの指導しかできず、高校のライティングの授業のほんの一部を経験させたに過ぎないと言うのが正直なところである。

現状の制度で、少しでもこのような問題点を改善するためには、授業をビデオ撮りしたものを活用することが考えられる。単に説明しながら、問題点を指摘するより、授業をビデオに撮り、それを見てもらう方が、はるかに説得力のある指導ができるからである。これまでは部分的にしか取り入れていなかったビデオによる授業研究を、次年度の実習指導で本格的に取り入れたいと思う。

また、最近の実習生は、自分の授業をするのに精一杯で、自分と同じところを教える他の実習生の授業を見ることはしても、自分の担当していない科目の授業や、指導教官以外の教官の授業を見ることを積極的にしようとしない者が多い。授業を真に改善するには、自分の教えていない科目からも多くのヒントを得ることができるものである。実習の期間に、できるだけいろいろな授業を、できる限り多く見学するようにもっと強く勧めることが必要だろう。

さらに、担当する授業時数が少ないということは、1時間の授業を充実させることが絶対必要である。そのためには、授業のリハーサルを実習生だけで放課後行っていることが多いが、教官がそれにも付き合って指導することも必要ではないかと思う。

  C授業案の指導

    指導案は授業の前日までに完成したものを提出してもらうことにしている。今年度の場合、授業の反省会の際に、次回の授業の範囲および何を目標にするかを話し合い、指導案の素案を作成するところまで行った。それを基にして、実習生は指導案を書いてくるわけだが、授業の前日に見せに来たときは、まだ穴だらけの場合が多かった。「具体的にここはどうするのか。」と聞くとまだ十分練れていないというわけで、再びその段階で時間をかけて相談にのることになる。従って指導案の完成版は、翌日の授業の直前に提出されるということが多かったのである。

指導案の書き方は大学で指導を受けているようで、形式に則って書いてはくるが、指導案自体は形式よりも中身を重視したい。英語で書いてほしい気もするが、要は、見学者がそれを見ればどのように授業が展開されるのかがわかる(実習生にとっては、それを見ればどのように授業を行えばよいかがわかる)ものでなければ、英語で書いてあっても意味はない。むしろ、英語、日本語両方でシナリオ的に書いてあるものの方が実質的である場合が多いようだ。

  D実習日誌の指導

    実習日誌は実習生が形式的につける記録ではなく、指導教官とのキャッチボールをする場であると思う。その日の授業や反省会、授業見学などから学んだことなどを日誌に記録することによって、問題点をクリアにすることができるものである。また、実習生が必ず直面する問題や悩みなど、心の問題を日誌に書いてもらうことにより、指導教官は一層きめ細かい指導をすることができる。その意味で、今年度はできる限り毎日日誌を提出してもらい、実習生の書いている悩みや疑問点、質問には必ず答え、コメントを記入して翌日に返却するようにした。毎日日誌を読んでいると、実習生が、短い実習期間に今の英語教育が抱える根の深い問題に気づいてくれたのを実感できる場合がある。そんなときは大いに共感したり、思いっきりこちらの考えをコメントしたりする。実習日誌は今後も大いに活用したいと思う。

  E研究公開授業と反省会

    英語科では、実習生全員に実習の締めくくりとして研究公開授業を行ってもらうことにしている。大学の英語教育担当の教官にも全員の授業を見ていただき、実習生一人一人に丁寧に授業のコメントをしていただいている。また、研究公開授業の反省会を行い、実習の成果と課題について、大学の教官、附属の教官、実習生、時には実習のOB(4回生)、来年の実習生(2回生)も加わって、忌憚のない意見を交換できる場としている。実習生の問題点を話し合いながら、今の英語教育の抱える問題点が話題になることもしばしばであり、われわれ教官にとっても、普段の授業のあり方を反省し、授業改善への意欲を高めることのできる場になることが多い。

    毎時間の授業の後の反省会においても、また研究公開授業後の反省会においても言えることだが、授業評価の観点(注2参照)をしっかり持っておくことが必要であることは言うまでもない。

    F共同作業

    数年前から、2年のライティングで1学期の最後に取り組んだトピック・ライティングの作品を、文化祭で展示することにしているが、英語の実習生全員の共同作業として、展示の飾り付けをやってもらっている。文化祭直前で、授業の準備もそれほど必要のない時期なので、楽しみながら作業してくれている。

  G課題レポート

    実習の最終日に、教科として「課題レポート」を書くことを実習生に課しており、指導案の綴りを提出するときに一緒に提出してもらうことにしている。このレポートは、教科指導の面で、これまで大学で学んできたことを踏まえて、実習中に学んだことを総括することによって、実習が今後の大学生活の動機付けとなることを願って設定している。

 

2.3 大学との連携

  @「英語教育授業実習」・・・筆者は、両附属中学の教官とともに大学で「英語教育授業実習」という科目を担当してきた。これは、附属の教官が直接大学生に中高の現場の様子や現状の問題点を話し、併せて教育実習のオリエンテーションをも兼ねる内容の講座である。実際に授業するのは、前期の5回だけなので、高校の英語教育のエッセンスだけを扱うようにしてきた。授業をビデオで紹介したり、実際に使用している教材を提示したり、模擬授業や発表をしてもらったりと、実践的な内容になるように工夫してきたつもりである。高校に実習に来る学生には必ず参考になる内容だったと思う。しかし、実習に来るものが全員この科目を履修しているわけではない。昨年度は、科目履修生のうち一人も高校には来ず、今年度も二人だけしか来なかった。せっかくこのような科目が置かれているわけだから、実習に来る学生はできるだけ全員履修してほしいものである。

  A大学教官との連携・・・実習生を真に育てるには、大学の教官と附属の教官の連携が不可欠だろう。このような連携の中で実習生の指導に当たれるのは、普段から大学とつながりのある附属ならではだと思う。しかし、これまでのところそのよさが十分生かされているとは言えない。まず、何よりも、大学で教科教育がどのような枠組みで、どのように教えられているのかを、われわれ附属の教官は知る必要がある。考えてみれば、大学と附属の連携を進めるこれまでの話し合いの中では、実習生の指導が正面から話題になることはまれであったように思われる。教員養成大学の使命は言うまでもなく、優秀な教員を育てることである。その観点から、大学と附属の教官の双方が、お互いの指導や考えを交流しながら、それぞれの立場から実習生一人一人をしっかり理解して指導できるようなシステム作りが急がれる。

3.今後の課題

    次年度は、高校へ実習に来る英語の学生の数が一挙に約3倍に増えると聞いている。今までのやり方では、到底うまくいかないことは目に見えている。そこで、これまで実習について述べてきたことを踏まえて、当面やらねばならないことについて整理してみることにする。

 1)指導体制の見直し

  @実習生の担当時間数の見直し・・・これまで実習生にできるだけ多く授業を担当させるようにしてきた。(今年度は、平均15.4時間であった。)しかし、次年度も同じ授業時数を維持するのは不可能である。少ない授業時数で実習の効果を上げるためには、授業見学の時間を増やすことが考えられる。その際、前述のように1,2年だけではなく、3年の授業も見学してもらうようにするのもよいだろう。授業見学からできるだけ多くのことを学んでもらうために、授業見学の方法についての指導法を確立することが必要である。2.2 3)@で述べた「授業見学のレポート」のフォームを具体化させ、それを活用したいと思う。また、1時間の授業から多くを学べるように2.2 3)Bで述べた「ビデオによる授業研究」をぜひ実行したいものである。

  A実習生の二人担当制の見直し・・・これまで、実習生はそれぞれ二人の教官から指導を受けていたが、次年度は実習生二人〜三人が一人または二人の教官に担当してもらう形にせざるをえないだろう。もし、これまでのように、2学年に渡って2種類の科目を担当してもらうとなると、教官一人当たり五人〜六人の実習生を担当することになる。もし、この原則をはずすと、教官一人当たり二人〜三人の担当で済むが、実習生一人当たりの担当時間数が大幅に減ることになる。いずれにしても、1時間の授業を一人の実習生が担当するのではなく、複数で担当することも考えないといけない。このような点について、できるだけ早期に教科で話し合う必要がある。

 2)大学との連携

    授業の観察実習(平成13年12月現在未実施)および、オリエンテーションを含め、今後いろいろな機会に大学教官と連携して、実習生一人一人の情報(学力や教員志望の有無など)や、大学での授業内容に関する情報を集めるとともに、附属と大学の教官が実習生の指導法について意見交換する場を設けることが必要だろう。これらによって得られる情報を念頭において指導することが、効果的な実習には不可欠だと思われる。

 

 

 

 

 

注1 『学校教育観察・参加研究』pp.79-80に「観察教育実地研究授業記録」として、ひとつのフォームが示されており、これを利用することもできるが、英語の授業独自の観察記録用紙で、記録しやすいものを工夫できればと思う。『英語科教育実習ハンドブック』pp.16-23には、授業観察の視点や方法が具体的に書かれている。「授業見学のレポート」のフォーム作成に参考になると思われる。

注2 『新しい英語科教育法』pp.179-177には、授業分析について、特に「評定システム」や「カテゴリーシステム」について紹介されている。また、『英語授業レベルアップの基礎』p.56および『英語授業成功への実践』pp.78-86では、「授業の10の原則」が示されている。いずれも授業評価の観点を考える際、大いに参考になるだろう。

 

参考文献:

米山朝二・佐野正之.1983.『新しい英語科教育法』大修館書店.

米山朝二・杉山敏・多田茂.1996.『英語科教育実習ハンドブック』大修館書店.

斎藤栄二.1996.『英語授業レベルアップの基礎』大修館書店.

斎藤栄二.1998.『英語授業成功への実践』大修館書店.

『京都教育大学教育実習指導概要』.1992.京都教育大学.

『学校教育観察・参加研究』.2001.京都教育大学.