平成12年度英語科教育実践研究会の記録

 

日 時 平成121124日(金) 1240分〜1630

 

会 場 本校メディアセンター 多目的ホール

 

参加者 64名(京都府32名※大学生4名含む 他府県32名)

 

司 会 高田 哲朗

 

記 録 築山 徹

 

内 容 

(1) 公開授業  磯部 達彦 英語T 「英語Tを楽しく教える工夫」

(2) 研究集会

  研究テーマ 「全ての生徒が参加できる授業をめざして」

  助言者        京都教育大学教授 鈴木 寿一先生  

  発表者

磯部 達彦 「英語Tの普段の授業で音読・英作文・ゲーム等を通して楽しく学ばせる試み」

      『英語Tでのゲームを取り入れた活動と生徒アンケートの結果』

 (研究紀要 第69号)参照

橋本 雅文 「リーディング指導を中心に」

      『予習再考』(研究紀要第67号)参照

 

○質疑応答(磯部の発表内容について)

 

A氏(大阪府 高校教員)

 WPMとはどのようにして測るのか説明してください。

 

(磯部)

WPMとはWords Per Minute、1分間に何語読めるかを示す値なので、表に長文、裏に内容把握の設問が印刷されたプリントを用いて測定します。生徒は教師の合図で一斉に読み始め、読み終えると所要時間をプリントに記録していきます。 その後、プリントを裏返して設問に答えます。長文には語数が書かれているので、所要時間から1分間に何語読めるかを計算します。この数値に問題の正答率をかけたものをWPMとして利用しています。また、この数値は英文の難易度によって変わるので、生徒の学力に応じたものを用意し、ある程度のばらつきが出るようにしています。

 

B氏(愛知県 高校教員)

普段の授業でどのようにして発表にあるような活動を取り入れていくのですか。

 

(磯部)

自由英作文や条件英作文はいつでも行うわけではありません。教材と日常生活との関連が高い時に行っています。また、教材についての意見や感想を英語で言わせたり、書かせたりする活動などもあります。

 

C氏(奈良県 高校教員)

ゲームはどのくらいの頻度で行うのですか。どのくらいの時間がかかりますか。また、WPMの測定についてもっと具体的に説明してください。

 

(磯部)

1つの試験までに3回程度行います。1回にかける時間は内容によって異なりますが、条件作文などは10分程度でしょう。教員紹介は1時間使いました。中には10分もかけていない活動もあります。絵本を使った活動については2時間かかりました。WPMについては後で現物を使って説明します。

 

D氏(大阪府 大学教員)

ゲームを軽視すべきではないと思います。現在小学校3年生に英語を教えていますが、ゲームは非常に効果があります。

公開授業では音読の声量が小さかったのが気になりました。授業の内容が盛りだくさんになりすぎて生徒も目標が絞れていないのではないでしょうか。授業の中に重点目標があってもいいと思います。磯部先生は音読についてどのように考えておられますか。

 

(磯部)

音読とは意味理解と考えています。音読することは英語のまま理解することにつながります。また、大きな声がでることでクラスが活気づく効果もあると思います。

      質疑応答(橋本の発表内容について)

 

E氏(京都府 高校教員)

授業内予習というやり方はいいと思うのですが、自分が担当している生徒の学力を考えると不安があります。たとえば、生徒がわからないまま読み飛ばしてしまうのではないかなどです。こういう状況ではどのようにすればいいでしょうか。

 

(橋本) 

E先生は生徒にどのような予習をさせておられますか。

 

E氏

生徒には家で音読をするように勧めています。知らない単語は読めないし、理解しにくい部分も読みにくくなるので、音読をすることによって自分のわからないところが把握できると思います。しかし、この予習も徹底しなかったので最近は授業でまず音読をするようにしています。

 

(橋本)

附属高校でも生徒の学力に幅があります。しかし、アンケートによると学力の低い生徒も「授業内予習」を歓迎しています。学力差がもっと広がると思われる3年生にも好評です。この提案は「附属だからできる」とは考えていません。生徒の学力に応じて工夫をすれば十分に可能だと思っています。

 

F氏(兵庫県 高校教員)

私も「授業内予習」を試みたが、学習意欲の低い生徒が多いクラスでは授業妨害をする生徒が出てきます。そういう危険性についてどう思われますか。

 

(橋本)

そういう状況では、家庭での予習も不十分ではありませんか。

 

F氏

家庭学習は期待できないので、新出単語などもプリントにしている状況です。

 

(橋本)

難しい状況だと思いますし、そういう状況に対して答える資格はないのかもしれませんが、生徒には「英語が読めるようになりたい」という願望はあると思います。文章の筋を追うおもしろさを損なわない範囲で1st Reading 用の質問の内容を細かくするなどの工夫が必要ではないでしょうか。

 

G氏(兵庫県 高校教員)

次の3点について先生の意見を聞かせてください。「授業内予習」の提案に私も賛成です。その後の展開を教えてもらえませんか。授業中に説明を繰り返すことは学力の低い生徒に対しては必要な場合もあると思います。アンケートの選択肢は3択式ですが、2つが肯定的となっているのはどういうわけでしょうか。

 

(橋本)

1st Reading ではスキミングをさせるために簡単な質問を用意していますが、ここで完璧な答えは要求しないことが大切だと思います。質問に答えられなくても2nd Reading の後に確認する方法もあります。 生徒をencourage することが大事なのであって discourage することは避けたいと考えています。2nd Reading の後の解釈では訳読はなるべくしないように心がけています。生徒が全訳をノートに書くことは好ましいとは思いません。 

説明の「繰り返し」については、たとえ説明を繰り返しても本当に聞いてほしい生徒はあまり聞いていないのではないでしょうか。

アンケートの回答については意図的に肯定の選択肢を2つにしたわけではないのですが、ご指摘は今後の参考にさせていただきます。

 

H氏(京都府 高校教員)

3年程前から「授業内予習」を実践しています。生徒の学力が低い場合はプリントを利用する必要がありますが、単語や表現の意味をすべて与えてしまうのではなく、部分的に辞書を引かせることを重視しています。生徒に作業をさせることで全員が授業に参加できるような工夫をしております。

 

(橋本)

授業中に徐々に調べることを増やしていくことはいいですね。その過程で生徒に「わかる」という気持ち、「達成感」を持たせることができると思います。

 

 

 

I氏(京都府 大学生)

「授業内予習」が家庭での予習に反映されていると思われますか。

 

(橋本)

英語の力をつけるために正しいと信じる方法を誠実に伝えていけば生徒もそれに応えてくれると信じています。 「授業内予習」の経験から、家庭で予習をする場合でも時間がないからといって1st Reading を省略するというやり方が非能率的であることは理解してくれていると思います。全訳をノートに書いていくような方法では本当の実力はつきません。これまでは精読が重視されてきましたが、日常的に英字新聞を読んだり、英文の小説を味読したり、また英語の論文などから仕事や研究に必要な情報をつかみ取ることができるよう「実用に耐える英語力」をつけるには、スキミングの能力は不可欠だと思います。

 

 

○助言者 鈴木 寿一先生(京都教育大学)のコメント

 授業成功のポイントとは何かを考える

 附属高校の英語科は常に「生徒の声」を日々の実践に生かしています。授業についてのアンケートを実施している教師は少ないようですが、アンケートなどを利用して「生徒の声」に耳を傾けることが授業改善につながります。教師の自己評価と生徒の授業に対する評価は案外異なる事が多いということを私も経験しました。

 英語の学習法を教えることは多くの教師がやっていますが、それを授業で生徒にやらせることができていないように思います。最近の生徒は自主的に学習する態度が欠けてきており、学習法を説明するだけでは不十分です。例えば「音読は大切だから家でよく読んでおきなさい」では音読の習慣はつきません。授業で継続して取り組み、その効果について実感させる必要があります。

 もうひとつ大切なのは、なぜこれをやらなければならないのかを常に明確にすることです。教師がわかっていても生徒は理解していないことが多いのです。なぜ音読が必要なのか、なぜすぐに辞書を引いてはいけないのかなどについて、様々な機会に手を変え品を変え繰り返し説明していく必要があります。

 授業をよいものにするには自分がどのような授業をしているのかを点検することです。ビデオで録画できればいいのですが、現実にはむずかしいのでテープレコーダーやICレコーダーなどを利用して授業を録音する方法が考えられます。これで発問から指名までの間の取り方などが研究できます。発問から指名までの時間が短いと指名されなかった生徒の緊張感や集中力が低下するようです。

授業の中で教師が英語を使うことはもちろん、生徒の多彩な能力に対応するために多彩な活動が必要だと思います。発音が得意な生徒もいれば、構文をとることが得意な生徒もいます。全ての生徒を授業に参加させるための工夫が必要だと思います。

アンケートで「生徒の声」に耳を傾けるだけでなく、生徒に力がついたのかどうかを確認するためにプリテストやポストテストを実施することが大切だと思います。これは生徒の成績評価のためというよりむしろ教師自身の評価に役立ちます。また、1年間の授業を通して学力が伸びていることを示すことができれば、生徒の学習意欲を喚起できると思います。

「多彩な活動」や「授業内予習」をするための時間確保のために、1レッスンのまとめの問題などは解答を配布し、家庭で自己採点をさせたものを提出させて、教師が点検するだけでもいいのではないでしょうか。そうすれば、生徒がどの問題をよく間違えるのかということなどが把握できるという利点もあります。

英文和訳については、避けては通れない問題だと思います。英語のままで理解するというのは英語が得意な人にできることであって、苦手な生徒にとっては英語を理解するために日本語の助けは必要です。ただ、一文一文、最初から細切れに訳していくことに問題があるのではないでしょうか。レッスンが全て終わってから(全体を理解してから)重要な部分を和訳させたものを提出させて添削するという方法も考えられます。そうすれば、生徒が英文和訳の日本語を聞き取っているような無駄な時間は減らせるはずです。

 「附属だからできる」ということをよく聞きますが、生徒が騒ぐのは授業がわからないからではないでしょうか、そういう場合、教材選択を間違っている可能性があります。わかりやすい授業を目指して、粘り強く指導していけば、今日の発表で紹介されたことに近いものができると思います。

 以前、単語が基本だと思い熱心に指導したのですが効果はありませんでした。それから、人間が言葉をフレーズ単位で理解していることを知り、フレーズ単位で音と意味の関連を重視して教えるようにすると効果的でした。特に低学力の生徒に対してはTotal Physical Response の活用が特に有効です。

 学力の低い生徒が多い高校に勤務していた時に、本文にスラッシュを入れ、そのフレーズについての質問が日本語で書いてあるプリントを用意して指導したことがあります。そして、日本語の質問と英語の語句とを繰り返し聞かせていくと低学力の生徒にも理解できるようになってきました。

あるテクニックが特定の学校でしか通用しないということはないと思います。教材のレベルに注意すれば、1つのテクニックはほとんどの学校で使えるのではないでしょうか。授業をよりよいものにするために様々な工夫をしていこうではありませんか。