高校での語彙指導の試み
1. 語彙ブーム
最近書店へ行くと、英語学習書のコーナーには高校生向き、一般向きを問わず、語彙学習の本がやたら目に付く。CD付属のものもあり、耳からも学べるようになっている。また、電子辞書も高校生の間にかなり普及してきたように思われる。語彙学習の重要性が再認識されてきたことが、これらの背景にあるのではなかろうか。
2.高校生の語彙学習上の問題点
2000年3月に語彙学習について、勤務校の高校1年生(154人)にアンケート調査をした。それによると語彙学習上の悩みについて次のような結果が出た。
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単語を覚えてもすぐ忘れる |
111人・75% |
熟語が覚えられない |
53人・35% |
単語を目で見ればわかるが、耳で聞いたらわからない |
53人・35% |
単語が覚えられない |
45人・29% |
単語の意味はわかるが発音できない |
39人・25% |
単語の意味はわかるが書けない |
39人・25% |
この結果は、単語を定着させる指導や、単語の音声指導を充実させることが必要であることを示している。
次に、同じアンケートから、高校生がどのように語彙を学習しているかを見てみよう。
語彙学習としてやっていること |
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予習で新出単語を調べていく |
80人・52% |
復習で新出単語を覚える |
58人・38% |
単語カードを作る |
6人・4% |
自分の単語帳を作る |
19人・12% |
市販の単語集で覚える |
36人・24% |
英和辞典をこまめに引く |
74人・48% |
英英辞典を利用する |
4人・3% |
電子辞書を利用する |
15人・10% |
テープを聞いて覚える |
7人・5% |
単語を発音する |
40人・26% |
この結果から、予習に比べ復習が少ない、単語カードや単語帳をあまり地道に作らない、英和辞典に比べ英英辞典をほとんど利用しない、耳からインプットして学習していないなどの生徒が多いことがわかる。
3.授業内語彙指導の試み
以上のような実態を踏まえ、授業の中で行っている語彙指導を紹介しよう。
英語T、Uの授業は、通常次のような手順(「二度読み方式」と称している)で行っている。
1) First Reading(生徒の予習を前提としないで行う1課全体を通読するスキミングやスキャニング中心の読み、辞書の使用禁止)
@
内容スキーマを与える簡単な導入活動とKey Words(通読に不可欠な数語)の提示
A
1課の本文全体の通読(教師がゆっくりわかりやすくペースメーカーとして音読する。生徒は教師の読みに合わせて黙読する。)
B
パートごとにワークシートの設問に解答(設問は概要をつかめているかを確認するためのものに限定。ここでは、新出単語の説明は原則として行わないので、木を見る設問ではなく、森を見るような設問にする。)
2) Second Reading(First Readingを終えて原則として数日後に行う、予習を前提とした精読)
@
パラグラフごとにテープを聞かせてからの英問英答
A
文またはセンス・グループごとの精読(内容、表現の両面において細部に注意しながら読む。その際、部分的に和訳もするが、できるだけ英問英答やパラフレーズで進める。)
B
新出単語・熟語の発音練習
C
教師の後についての本文の音読
D
『ボキャビル』のワークシートを用いた指導
E
まとめの活動としてのさまざまな音読活動(buzz reading, pair reading, parallel reading、shadowingなど。)
この手順に関して少し説明しておこう。
1)First Readingでは予習を前提とせず、英和辞典を使わせないが、それは次のような理由による。多くの生徒が予習と言えば、新出単語の意味を英和辞典で調べてくる(それも辞書の定義の、最初のものを機械的に写してくる)ことだと錯覚し、その結果、読解では極めて大切な「文脈から単語の意味を推測すること」がおろそかになってしまいがちである。これを避け、知らない単語が出てきても、立ち止まってすぐに辞書を引かず、できる限り文脈から推測して、自分の力でどれぐらい読めるかチャレンジする。また、この段階で英文は100%理解する必要はなく、細部にこだわって大事な点を読み落とすことのないように注意する。これらがFirst Readingで強調している点である。
2)Second Readingでは予習をしてくることを課しており、その際英和辞典の使用を奨励している。これは、First Readingでつかんだ概要に基づきながら、推測だけでは明確でなかった部分を、辞書を使いながら確認してくることを予習として求めている。また、音読を重視しているが、これは新しく学習した単語を文脈の中でインプットするとともに、その際、音と意味とをしっかり結びつけることをねらいにしている。
さて、今年度は、Second Reading(上記2)のD)で用いるワークシートを『ボキャビル』と名づけて、それを用いて語彙に焦点を当てた活動を行うことにした。つまり、Second Readingで精読が終わり、本格的な音読練習をする前に、この『ボキャビル』を用いて語彙面のまとめを行うわけである。なお、『ボキャビル』のワークシートを作成する際、注意していることは次の点である。
@新出・既出に関わらず、内容理解にとって重要な語句を取り上げる。(新出単語でも重要でないと判断すれば取り上げていない。)
A単に訳語に注意を向けるのではなく、英英辞典から英語での言い換えや定義を引用する。(英英辞典を利用している生徒が少ないので
その記述法に慣れさせ、英英辞典の利用を間接的に奨励している。)
B品詞の区別に注目させる。(形容詞を動詞と
混同する生徒がいる。)
C派生語を紹介して単語のネットワークを作らせる。
D 熟語・イディオムも取り上げる。
E 例文を入れ、それを和訳するのを宿題とする。
F ワークシートは提出させ、添削の上返却する。
では、『ボキャビル』のワークシートの実例(英語Uで本年4月に使用したもの)を紹介しよう。
Lesson
1 A VOYAGE OF SURPRISE AND
DISCOVERY
ボキャビル class ( ) NO ( ) name (
)
*( )には英語を、< >には日本語を記入しなさい。
Before
You Read:
discovery
< >---(動) ( )---(名;人) ( )
consist
of〜=be (
) up of〜 < >
presentation
< >-----(動) (
)
Part 1:
celebrate
< >-----(名)
(
)
variety
< >-----(形)
(
)
a
variety of 〜=many (
) types of 〜
murmur = to speak or say very (q )
e.g. “I love you," she murmured.
turn to〜 < >
e.g. I turned to the person next to me and
asked her what time it was.
bring
oneself to do < >
spoil=to (d ) or damage (something)
e.g. The
oil spill spoiled five miles of coastline.
e.g. Don't tell me how it ends,
you'll spoil the movie for me.
appetite
=a desire or (n ) for
something, esp. food
e.g. a good/healthy appetite
e.g.
an appetite for adventure
Part 2: (以下略)
『ボキャビル』のワークシートを用いて授業中に語の定義や発音を確認した後、家庭学習の中でワークシートを完成してくることを宿題にしている。これは、語彙学習を復習の中でぜひやらせたいからである。
なお、1学期末に『ボキャビル』のワークシートについて生徒にアンケート調査したところ、「役に立つ」と答えた生徒が約6割いた。一方「むずかしい」と答えた生徒も約6割おり、「おもしろい」と答えた生徒は2割にすぎなかった。今後もワークシートを改良しながらこの実践を続けていきたい。(高田哲朗(たかだてつろう)京都教育大学附属高校教諭)
3.1.英語Tにおける辞書指導
まず、辞書指導を語彙指導の重要な柱の一つとして位置付け、1999年度1年生の英語Tの中で各学期に1回、計3回辞書指導を行った。1学期と2学期は英和辞典の使い方を、3学期は英英辞典の活用法を扱った。いずれも、特別の教材で辞書指導を行うのではなく、その日の授業の教材を用いて、言わば「辞書指導を行いながらの授業」を3時間分行ったわけである。
具体的には、教科書の本文を読み進めながら、辞書で確認させたい単語や熟語が出てくると、ワークシートで、それらの語句に関して予め作っておいた問題に答えさせながら、辞書の使い方を学ばせるようにした。本校では生徒全員に同じ辞書を購入させてはいないので、共通に説明したい事項の場合は、『ジーニアス英和辞典』などの電子辞書からその部分をコピー、ペーストしてワークシートに辞書本文を載せておき、それを用いて説明した。1、2学期の辞書指導で取り上げた項目は、「英語の辞書の種類」、「単語の発音の調べ方」、「辞書の記述の特徴」、「文法や語法の調べ方」、「意味の調べ方」、「語源の調べ方」、「例文の活用法」、「カタカナ英語の注意点」、「派生語や類義語の活用」、「熟語の調べ方」などである。なお、2学期は、辞書を引きながらワークシートの問題に答えるのを競争でやらせてみた。生徒は辞書を引くのをゲーム感覚で楽しんで取り組んでいた。
3学期の辞書指導では、まず本文に出てくるいくつかの単語に関して、CD-ROMの英英辞典からの定義と例文を提示して、英英辞典の活用法についての一般的な説明を行った。本文の読解終了後、英英辞典を持っていない者には1冊ずつ貸し与え、その時間に出てきた重要語の中から12語を取り上げて、その「定義と例文を英英辞典から抜き出す」という課題を出した。悪戦苦闘して英英辞典の定義を読んでいる生徒の質問に答えながら机間指導した。この辞書指導の直後、数人が英英辞典の推薦を求めに来た。彼らは早速英英辞典を購入し、授業にも持参してたえず利用しているようである。
和英辞典の指導もきちんとどこかでやりたいのだが、これまでのところ実施できていない。今年度、2年生のライティングの時間に実施したいと考えている。
3.2.英語Uにおける『ボキャビル』
英語Uの授業は、通常次のような手順(「二度読み方式」と称している)で指導している。
3) First Reading-----内容スキーマを与える簡単な導入活動の後、1課の本文全体を通読する。(パートごとに設問を用意し、概要をつかめているかを確認しながら読み進む。)
4) Second Reading-----パートごとに内容面、表現面の両面から細部に注意しながら読む。(英問英答やパラフレーズを重視する。まとめの活動としてさまざまな音読を行う。)
今年度は、Second Readingで用いるワークシートを『ボキャビル』と名づけて、それを用いて語彙指導を行うことにした。つまり、Second Readingで意味解釈が終わり、音読に移る前に、この『ボキャビル』を用いて語彙面のまとめを行うわけである。
『ボキャビル』のワークシートを作成する際、注意していることは次の通りである。
G 新出・既出に関わらず、key wordを取り上げる。
H 単に訳語に注意を向けるのではなく、英英辞典から英語での言い換えや定義を引用する。
I 品詞の区別に注目させ、派生語も紹介する。
J 熟語・イディオムも取り上げる。
K 例文を入れ、それを和訳するのを宿題とする。
L ワークシートは提出させ、添削の上返却する。
では、『ボキャビル』のワークシートの実例を紹介しよう。(省略)