電子辞書を活用した

英語教育の実践

 

京都教育大学附属高校

高田哲朗

 

1.はじめに

 

電子辞書は英語教師の「強力な武器」である。教材研究に、教材プリントやテスト問題作成に、授業や補習での指導に、個人指導や添削指導に、そして自己研修に、・・・と、英語教師としての営みのあらゆる場面で強い味方になりうる。もはや、電子辞書なしで英語教師の仕事を語ることはできないだろう。

 

2.教材研究での利用

 

 教材研究には、参考文献や辞書、インターネットなどに加えて、英和、和英、英英、国語、漢和などの辞書類を瞬時に引くことのできる電子辞書が非常に便利である。教材研究をしていて、意味(適切な訳語)、発音、綴り、派生語、collocation、同意語・反意語、・・・などに関して、知識が曖昧な箇所に遭遇したら、いつでも、どこでも電子辞書を引いて、簡単に確認することができるようになった。特に、ライティングの教材研究には、「例文検索」機能がたいへん役に立つ。たとえば、「週末に」の意味で、“in the weekend”と言えるかどうかを調べたいときは、Longman Advanced American Dictionaryの画面で、まず「例文検索」で、weekendと入力すると、at the weekend, for the weekend, over the weekend, on the weekend, this [that, last, next] weekendなどが使われた例文を多数見つけることができる。しかし、in the weekendが使われている例文は見つからない。そこで改めて、「例文検索」でin the weekendと入力してみる(実際にはin&the&weekendと入力する)と、やはり用例は見つからない。内蔵されている他の辞書(英和辞典)で同じように「例文検索」機能を使って調べてみても同様の結果であることがわかる。(注1)これらのことからin the weekendとは普通言わないと考えてよいであろう。このように、「例文検索」機能を使うと、電子辞書を簡易コーパスとして用いることができる。これは、英作文の添削の際たいへんありがたい機能である。最新の電子辞書では、「複数辞書例文検索」機能のついているものがある(注2)が、これを使えば、内蔵されている辞書を一度にすべて検索してくれるので、辞書を切り替えて検索する必要がなくなった。

 余談であるが、筆者は、いつでもどこでも電子辞書を携行することにしている。片道1時間半の電車通勤をしているが、その時間を利用して英語番組の録音を聞いているとき、聞き取れない語や未知の語、気になる表現などに出くわしたとき、忘れないうちに、その場で電子辞書を引くようにしている。たいてい問題点は即決する。携帯型の電子辞書ならではの良さである。

 

3.教材・テスト作成での利用

 

 パソコンで、教材プリントやテスト問題を作成する際、実際に最も重宝するのは、コピー、ペーストして電子データを直接加工できるOn-line型やCD-ROM型の電子辞書である。筆者の場合、ハードディスクに複数のCD-ROMの辞書を格納しており、インターネットからダウンロードしたロボワード辞書(マウスを合わせるだけで辞書が引ける電子辞書)(注3)とインターネットで利用できるOn-line型の辞書などを併用し、さらに携帯型の電子辞書も参照しながら仕事を進めているが、今回は携帯型の電子辞書に限定して話を進めたいと思う。

 

1)例文作成――例文検索機能の利用

 

 教材プリントやテスト作成の際、最も苦心することの一つは、いかによい例文を用意するかであろう。電子辞書の「例文検索」機能(または、上述の「複数辞書例文検索」機能)を使えば、英和・英英を含めて数冊の辞書(最新の電子辞書には、英和、和英、英英に加えて、活用辞典や、英作文辞典などが収録されているものも販売されるようになった。(注4))に書かれている例文をすべて瞬時に検索して、拾い出してくれる。(紙の辞書ではこんな芸当は全く不可能である!)その中から、最も気に入ったものを選び出せばよいのである。自分で例文を作成する場合は、native checkを受けたいところだが、辞書の例文ならその必要はない。

 

 2)語彙指導――「スペルチェック」機能などの利用

 

 語彙力を強化することは、どのレベルの学習者にとっても大きな課題である。たとえば、語彙力増強のためのワークシートを作成するのに、「スペルチェック」機能(ブランクワードサーチ[= 文字数が分かっていて綴りが分からないときの検索法]やワイルドカードサーチ[= 連続した数文字分の綴りが分かりないときの検索法])(注5)を使えば、クイズ形式で楽しみながら取り組める語彙力増強問題を、手軽に作成することができる。問題例を示そう。

例1)次の _ に適切な文字を入れて、できるだけたくさん英単語を作りなさい。

g _ _ _ s

解答: glass, grass, gloss, goods, gross, guess, ・・・など。

例2)zationで終わる英単語をできるだけたくさん書きなさい。

解答:authorization, centralization,

civilization, colonization,

generalization,・・・など。

例3)bookを最後につけて作る複合語をで

きるだけたくさん書きなさい。

解答: bankbook, cashbook, cookbook, guidebook, handbook, ・・・など。

          言うでもなく、例1は「ブランクワードサーチ」を、例2、例3は「ワイルドカードサーチ」を用いれば簡単に解答を得ることができる。

例1から例3のような問題を回答させるのに、電子辞書を使用させながら行うと、生徒はゲーム感覚で夢中になって取り組んでくれる。これは、単語学習と意識せずに、まさに遊びながら語彙力を伸ばす方法ではなかろうか。

また、電子辞書に収録された英英辞典を使えば、次のような問題を簡単に作ることができる。

例4)次の定義に合う英単語を答えなさい。

 an electronic machine that stores information and uses programs to help you find, organize, or change the information = (          )

解答: computer

例5)(    )に適語を入れて、英単語の定義を完成させなさい。

  umbrella = a circular (    ) frame covered with cloth or plastic that you hold above your head when it is (    ).

解答: ア. folding  . raining

 新出単語の導入に使うワークシートで、このような英英辞典の定義を活用すると、日本語訳を与えるよりも、単語の意味の正確な理解を得させることができるのではなかろうか。もちろん、必要に応じて、日本語訳も書かせるようなワークシートにしてもよいだろう。また、生徒は英単語を覚える際、日本語訳と1対1対応で覚えようとすることが多いが、その弊害をさけるためにも、復習の段階で、単語の定着を見るためのいわゆる単語の小テストをする際、英英辞典の定義や例文を活用した問題を是非出題したい。そうすることにより、英語を英語として捉えたり、例文を学ぶことで単語の使い方も一緒に覚えたりする習慣を身につけさせることができるだろう。単語だけでなく、熟語などの指導には、英英辞典で「成句検索」機能を活用すると、熟語の他の英語での言い換えや、熟語の使われた例文を簡単に知ることができる。

 

3)「テーマ別語彙集」

―――和英辞典の利用

 授業の最初の5分間を使って、「テーマ別語彙集」を、毎回テーマを決めて作らせると、単語のネットワークを生徒の頭の中に構築させるのに役立つであろう。「学校」、「家庭」、「交通」、「果物」・・・などのテーマごとに語彙を整理させるのに、電子辞書に収録された和英辞典を利用させると能率よくできる。例6のように、予め日本語を記入したプリントを使ってもよいし、テーマだけ与えて、制限時間を決めて、生徒に先ず日本語の単語を思いつくだけ書かせ、その後でそれらを英語に直させるようにしてもよい。

例6)テーマ「学校1(建物編)」

1) 校門=(        ) 2)校舎=(         )

3)グランド=(      ) 4)中庭=(       )

5)保健室=(      ) 6)体育館=(       )

・・・など。

紙の辞書と比べて、電子辞書ははるかに速く引くことができるので、この活動に電子辞書の使用を認めると、生徒はどんどん辞書を引きながら「テーマ別語彙集」をすぐに仕上げてしまう。毎時間のうちの5分間を使った継続的実施が十分可能である。

 

3.授業・補習での利用

 

 1)読解指導の場面で

 

 筆者は、「英語T」、「英語U」、「リーディング」などの授業や、読解を中心とした補習授業などで、文法訳読式の授業ではなく、直読直解を目指して、7、8年前からFirst ReadingSecond Readingからなる「二度読み方式」の授業を行っている。

First Readingは、予習を前提としないで、必要最小限の語彙(アウトラインを捉えるのに必要なキーワードだけ)を与えて、1時間でレッスン全体を読んで概要をとらえさせるものである。ペースメーカーとして、教師がチャンク単位でポーズを置きながら音読し、生徒はそれに合わせて意味を取ることに集中しながら黙読する。その際、内容理解をチェックする質問を各パラグラフに1つ程度用意し、パートごとに質問の答えを確認しながら読み進める。

次の時間からSecond Readingに入るのだが、これは予習を前提として内容を詳しく読んでいくものである。注意しないと、Second Readingでは、従来の文法訳読式になってしまう危険性があり、よい指導法がないか模索していたところ、京都教育大学の鈴木寿一教授からご示唆を得て、現在では「ラウンド制」でSecond Readingを指導している。これは、パートごとに読んでいく際、「ラウンド」を3〜4程度設けて、その「ラウンド」ごとに違った角度から英文に焦点を当てて、理解をチェックしながら読解を深めていくやり方である。全体から部分へ、部分から全体へと角度を変えながら、いろいろなタスク(具体的には、英問英答やTrue or False Questions、内容をまとめた表や図の完成問題、タイトルをつける問題、topic sentenceを見つける問題、同意語や派生語を問う問題、文の構造を問う問題・・・など)を与えて繰り返し読ませるうちに、訳読に頼らずに内容理解に到達させることができるというものである。

 このような「二度読み方式」の授業を行う場合、電子辞書は教材プリント作りに大いに役立つ。まず、First Readingでの語彙の導入では、3−2)で述べたように、電子辞書に収録された英英辞典の定義を用いてワークシートを作成している。Second Readingでは、英問英答やTrue or False Questionsの作成を短時間で行うのに、電子辞書は重宝している。

また、授業にはいつでも電子辞書を携帯するようにしているが、生徒の質問に迅速かつ臨機応変に答えたり、rewordparaphraseをしたりするのに、電子辞書の英英辞典は不可欠なものになっている。

 

 2)作文指導の場面で

 

 筆者の勤務校では、2年の「ライティング」2単位のうち、1単位は日本人教師によるSolo-Teachingで、もう1単位はALTとのTeam-Teachingで指導している。3年の「ライティング」では日本人教師一人で指導している。Team-Teachingの場合は、生徒の作文を黒板で添削する場合、ALTと英語でコミュニケーションしながら自信を持って添削することが可能である。しかし、Solo-Teachingの場合は、生徒の書いた英文が、文法的に正しい英文かいなかや、たとえ文法的には正しいと言えても、実際によく使う表現かいなか、さらには、レジスターの観点からもっと適切な表現があるのではないか・・・など、添削をしながら迷うことがしばしばである。そのような時、以前は、「この点については次回までに調べてくるので保留にしておいてください。」などと言って、授業が終わってから辞書や参考書などを調べ、その結果を次回の授業で説明するしかなかった。電子辞書を授業に携行すると、そのような場面で、生徒の前で電子辞書を引き、2で述べた「例文検索」機能や「複数辞書例文検索」機能などを用いて、その場で確認できる場合が多くなった。生徒には「辞書によると、〜のような例文が出ているので、〜のように書くほうがよいだろう。」と言うような説明をすることになる。これは一見、教師が知らなかったことを暴露することになるが、同時に生徒の前で、電子辞書を使っての学習法(ここでは、辞書を用いた疑問点の解決法=語法研究の仕方)を教えていることに他ならない。このような学習の仕方を教えることの大切さは言うまでもないだろう。

 パラグラフ・ライティングやエッセー・ライティングをさせる場合も、電子辞書はたいへん役に立つ。生徒は電子辞書を使いながら作品を淡々と仕上げていく。ただし、電子辞書の使い方を前もって指導しておかないと、生徒は日本語で文を組み立てながら、知らない単語を片っ端から和英辞典で引こうとする。そのようにしてできた英文は極めてぎこちないものとなることが多い。これは電子辞書指導が必要な理由の一つである。これについては4で述べる。

 パラグラフ・ライティングやエッセー・ライティングの指導では、当然のことながら教師による添削が求められる。筆者の勤務校では通常次のような手順でパラグラフ・ライティングやエッセー・ライティングの指導行っている。

@ 生徒による作文

A グループでのPeer Correction

(友だちの作文を読んで、分かりにくい箇所や間違っていると思う箇所に下線を引かせる。うまく書けていると思う場合は、その旨コメントを記入させると言うようなやり方である。)

B 生徒自身による修正

C 教師による誤りの指摘

(生徒のcorrectionと区別するために、色を変えて下線を引いたりして誤りに気づかせるようにする。)

D 生徒自身による再修正

E 教師による添削(誤りを直す。)

F クラス全体への教師による共通の誤りの指摘

G 生徒による添削箇所の確認

(直してある部分を確認する時間をとる。その間に質問があれば受け付ける。)

H 生徒による音読練習

I 生徒による音読発表

 いつもこのような10のステップを踏んでいるわけではなく、実際は学期に1回程度の大きな課題の場合だけである。それ以外の小さな課題の場合は、@⇒A⇒B⇒E⇒F⇒Gと言うプロセスで行うことが多い。いずれにせよ、教師が、たとえば2クラス80人の生徒の作文を毎週1回の頻度で添削する際、電子辞書なしでは到底処理できない。

 個人添削とりわけ、大学入試直前の過去問における和文英訳や課題作文の個人添削指導の場合、生徒の目の前で電子辞書を引きながら行うことが多い。「辞書によると、この表現の方が良く使うようだ。」と説明すると生徒は納得してくれる。

 

4.電子辞書指導について

 以上述べたように、電子辞書はまさに文明の利器であり、教師にとっても生徒にとっても利用しない手はない。しかし、便利さゆえに、使い方を間違えると、英語学習にとってマイナスになることを忘れてはいけない。その意味で、電子辞書指導は不可欠である。次に、電子辞書指導で教えるべき点をいくつかあげてみたい。

1)  英文を読んでいるとき、知らない単語や表現が出てきても、すぐに電子辞書を引かないこと。文脈から意味を推測するくせをつけるためにもこれは最も大切なポイントである。読み終わってから確認するために電子辞書を引くように指導したい。

2)  電子辞書ならではの機能を活用すること。もちろん、意味を調べるのに、紙の辞書より速く引けると言うメリットを生かすのもよいが、紙の辞書では不可能な機能を活用すると英語学習を充実させるのに大いに役立つことを是非指導したい。

たとえば、ジャンプ(スーパージャンプ)機能を使えば、英和から英英へ、英英から英和へ、英和から国語へ、国語から和英へ、和英から英和へ・・・と言うように、紙の辞書では手間がかかったいくつもの辞書で同じ語を引くことが瞬時にできること。最新の機種で、「複数辞書検索」機能がついているもの(注6)を用いると、どの辞書に記載があるかを一つの画面で確認できるようになり、(スーパー)ジャンプ機能を使わなくてもよくなり、使い勝手が飛躍的に向上した。この機能も必ず指導したいところである。

英文を書いているとき役立つのは、上述の「例文検索」機能や「複数辞書例文検索」機能である。簡易コーパスとしての利用法も是非指導したい。

さらに、「スペルチェック」機能を活用すれば単語学習に役立てられることや、「ヒストリー」機能を用いて学習した単語・熟語・例文などを復習できることも指導したい。最新の機種には「単語帳」機能のついているものがある。(注7)これは、自分独自の単語帳を電子辞書の中に構築できる機能である。電子辞書を引いていて、是非覚えたい単語、成句、例文などが出てきたら、単語帳に登録しておくことができる。単語は単語帳が英英/英和/類語用と和英用の2種類が用意されており、例文は例文帳に、成句は成句帳に、日本語の単語は漢和/古語/広辞苑の3種類が用意されており、それぞれ別に記録することができるようになっている。この機能を利用すれば、自分独自の単語帳、例文帳、成句帳を作ることができるようになった。もちろん、登録は簡単に行え、記録に残しておく必要がなくなれば、ボタン1つで削除できる。この機能は、復習するのに非常に便利であり、是非指導したい機能である。

 

5.おわりに

 ここ2,3年で、携帯型電子辞書は驚くほど進化した。偏見を捨て、実際に使ってみると、いかに優れた教育機器であるかが実感できる。本稿では、音声機能のついた機種には触れなかったが、電子辞書はこれからもマルチメディアの教育ツールとして飛躍的に進化し続けるであろう。電子辞書は、これまでとかく批判されてきた日本の英語教育を改善し、効率のよいものにする可能性を秘めている教育機器とさえ言えるのではないだろうか。「電子辞書は英語指導、英語学習に革命をもたらすであろう。」というのが、とりあえずの結論である。

 

1)      これは、カシオの電子辞書XD−V9000を使用した結果である。

(注2)「複数辞書例文検索」機能は、2004年発売のカシオの電子辞書XD−H4100などについている機能である。

(注3)たとえば、Babylon Proなど。

(注4)たとえば、カシオの電子辞書XD−H9100などである。

(注5)カシオの電子辞書にはこの機能がついているものが多い。

(注6)たとえば、カシオの電子辞書XD−H4100など。

(注7)たとえば、カシオの電子辞書XD−H4100、H−9100など。

参考文献:

斎藤栄二・鈴木寿一編著.(2000). 『より良い英語授業を目指して― 教師の疑問と悩みにこたえる』大修館書店.

鈴木寿一.(2001). 「ラウンド制リーディング指導の実際とその効果」 英語の教え方研究会主催・中学高校教員のための英語教育セミナー配布資料.

横川博一編.(2001). 『現代英語教育の言語文化学的諸相 斎藤栄二教授退官記念論文集』三省堂.

高田哲朗.(2001). 「目的別おすすめソフト―電子辞書」 大修館書店『英語教育』   7月号.

高田哲朗.(2001). 「高校での語彙指導の試み」大修館書店『英語通信』25

高田哲朗.(2001). 「英語T・Uにおける語彙指導」『京都教育大学教育学部附属高等学校研究紀要』第69号.

高田哲朗.(2002). 「高校三年のリーディング指導で大切にしたいこと」 『京都府立高等学校英語教育研究会研究会誌』No.32.

『実例でわかる英語学習EX-word活用ガイド』. (2003). カシオ計算機株式会社 学販推進室.

 

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