3年間を見通したライティング指導の実践
〜ライティングのシラバス作りの試み〜
英語科
高田哲朗
1. はじめに
いよいよ4月から新指導要領に基づく授業が始まるが、教科としてこれまでの指導内容を総括し、いわゆる「4技能」それぞれについて、3年間を見通した新しいシラバスの作成を急がねばならない。本稿は、これまでライティングの指導で実践してきた内容を踏まえて、ライティング指導のシラバス作りを試みたものである。
2. Creative WritingのError Analysisの結果から得られたこと
2学年の「ライティング」の授業の中で、Creative
Writing(本校では“Topic Writing”と称している)の指導を行い、毎月1つの作品を完成させているが、2001年度の2年2組39人について、4月に実施した第1回の課題(テーマはMy Dream)と、2月の最終回の課題(テーマはSocial Problems)で、提出された生徒の作文を資料として、誤りの分析(Error Analysis)を行った。分析の手順を略述すると次のようになる。
1)2回の作文それぞれについて、生徒一人ずつの作品を読み直し、文法・語法上の誤りを見つけるたびに、Excelのシート上に誤りを種類別に記録していく。(その際、同一の生徒が同じ間違いを2回以上繰り返している場合も、その回数はカウントせず、1種類の誤りをしたとする。)
2)誤りを種類ごとにそれぞれの課題で合計する。
このようにして出た結果を、表にまとめると、表1のようになる。(注1)全体的に、4月より2月の方が、誤りの絶対数が増えているのは、課題の性質によると思われる。すなわち、4月の課題は、“My Dream”で身近な話題であり、要求した作文量も、B5の用紙1枚であったのに対し、2月の課題は、“Social Problems”で、内容的にむずかしく、レベルの高い語彙や表現を用いることが必要とされるだけでなく、要求した作文量もB4の用紙1枚(4月の2倍の量)であったことなどによると考えられる。(資料1)
表1から明らかなように、ほぼ1年間「ライティング」の授業を受けた後でも、「数」、「冠詞」、「動詞」、「前置詞」などの項目は、依然として多くの生徒が誤っていることがわかる。「三単現」や「数の一致」も誤り全体の割合から見ると増加していることがわかる。一方、「Becauseの用法」や「自動詞・他動詞」の区別などは、1年間の指導で改善されているのがわかる。誤り全体からの割合で見ると、「日本語直訳」、「品詞の間違い」、「時制」、「副詞」などの誤りも減少しており、これらについても指導の成果であると言えるかもしれない。一方、誤りの多い項目のうち、「冠詞」や「前置詞」は、文法の準教科書で極めて軽い扱いしかされていないことが多く、本校の文法の授業でもそのような準教科書を使用していることもあり、これらの品詞について十分指導できているとは言えない現実がある。分析結果は、この現実を反映しているのかもしれない。「数」については、英語の「数」の概念を、今後どこかの段階でしっかり身につけさせることが必要であろう。新しいライティングのシラバスを考える上で、今回の分析結果を参考にしたい。
4月の課題(省略) |
2月の課題(省略) |
誤りの種類 |
出現数(%) |
誤りの種類 |
出現数(%) |
冠詞 |
24 (18.3) |
数 |
42
(18.6) |
Becauseの用法 |
19
(14.5) |
冠詞 |
31 (13.7) |
数 |
15
(11.5) |
動詞 |
23
(10.2) |
日本語直訳 |
12
(9.2) |
前置詞 |
21
(9.3) |
自動詞・他動詞 |
11(8.4) |
単語の誤用 |
17
(7.5) |
品詞の間違い |
9 (6.9) |
日本語直訳 |
15
(6.6) |
前置詞 |
8
(6.1) |
品詞の間違い |
12
(5.3) |
単語の誤用 |
8
(6.1) |
三単現 |
11
(4.9) |
時制 |
7 (5.3) |
時制 |
10
(4.4) |
数の一致 |
3
(2.3) |
数の一致 |
9
(4.0) |
三単現 |
3
(2.3) |
自動詞・他動詞 |
7
(3.1) |
副詞 |
3
(2.3) |
代名詞 |
6
(2.7) |
比較 |
2
(1.5) |
態 |
5
(2.2) |
関係副詞 |
2
(1.5) |
副詞 |
4
(1.8) |
代名詞 |
2
(1.5) |
比較 |
4
(1.8) |
語順 |
2
(1.5) |
接続詞 |
3
(1.3) |
動詞 |
1 (0.8) |
助動詞 |
2
(0.9) |
助動詞 |
0 (0) |
否定 |
2
(0.9) |
態 |
0 (0) |
Because |
1 (0.4) |
否定 |
0 (0) |
語順 |
1
(0.4) |
接続詞 |
0 (0) |
関係副詞 |
0
(0) |
(表1)
3. 現行のカリキュラムでのライティング指導
3.1 枠組み
現行のカリキュラムでは、英語は表2のようになっている。
3年
|
リーディング (3単位) |
ライティング (2単位) |
選択英語U (2単位) |
2年
|
英語U (3単位) |
ライティング (2単位) |
|
1年 |
英語T (3単位) |
OC A (2単位) |
|
(表2)
現行のカリキュラムの中でのライティング指導をもう少し詳しく見てみよう。表2に示す科目の中で、ライティング指導の中核を成すのは、もちろん2年の「ライティング」及び3年の「ライティング」という2つの科目の中での指導である。これら以外に、1学年、2学年の総合英語すなわち「英語T」、「英語U」や、1学年の「オーラル・コミュニケーションA (本稿ではOCAと略す)」の中でも、ライティングの面の指導を行ってきたし、3年の「リーディング」でも副次的にライティングを教えてきた。選択英語については、筆者はこれまで担当していないが、「英語U」の増加単位として、演習中心の授業の中で、部分的にライティングの指導がなされてきたはずである。
3.2 1学年のライティング指導
3.2.1 概要
上で述べたように、カリキュラムの上では、1学年には「ライティング」と言う科目は存在しない。従って、総合英語である「英語T」ないしは、「OCA」の中でのライティング指導ということになる。「英語T」では、リーディングや文法に重点を置くあまり、「OCA」では、スピーキングやリスニングの指導が中心にならざるを得ず、いずれの科目でもライティング指導に十分時間をかけられないという現実がある。しかし、2、3学年だけのライティング指導では、言うまでもなく不十分であり、1学年の間にライティングの基礎力を身につけさせておきたいのも事実である。そこで、これまで「英語T」、「OCA」の中で、意識的に少しずつライティングの活動を取り入れるようにして、ライティングの基礎力を養うように努めてきた。ここで言う「ライティングの基礎力」を構成するもの(換言すれば、1学年のライティングの到達目標)は、次の2点にまとめることができるだろう。
1)「英語T」や「OCA」で学習した表現や文法事項、語彙などを用いて短文を正確に書く
2)聞いたり読んだりして学習したこと、体験して考えたこと、普段考えていることなどについて、誤りを恐れずにある程度の量の英文で書く
1)は言うまでもなく、accuracyの面、2)はfluencyの面に関する力である。この両面での基礎力を1学年の間に養っておきたいということである。
3.2.2「英語T」の中でのライティング指導
(1)正確に短文を書く練習としての「オーラル・コンポジション」と「ディクテーション」
「英語T」の教科書で、各課で取り上げられている文法事項(注2)や、本文で使われている表現を用いた「オーラル・コンポジション」(口頭作文)または「ディクテーション」を、2文から5文程度、できれば毎時間行いたい。ディクテーションについては、専用の解答用紙を作っている。(資料2)前時の復習として、授業の最初に小テストとして行う場合もある。ただしその場合は、抜き打ちでやるよりも、前もって小テストの内容を予告して、生徒に準備させて受けさせるようにした方が効果的であろう。小テストと言っても、毎回回収して教師が採点する必要はない。むしろ、テストの直後に正解を提示して、生徒に自己採点させ、その場で誤りを訂正させるようにする方が、フィードバックが早くて効果的な場合も多い。生徒の自己採点および自己添削の済んだ用紙を回収して、生徒の誤りや取り組みの状況をチェックすることや、何回かに1回は教師が採点すると言ったこまめな指導は、accuracyを身につけさせるためには不可欠であると思われる。
(2)Post-Readingの活動としての自己表現活動
「英語T」では、Post-Readingの活動として、その課のテーマなどについて自分の意見を自由に書かせる作文課題を出している。提出された作文は、添削をし、コメントを書いて返却するが、時には、作品を印刷して、生徒全員に配布することもある。(注3)生徒にとって、自分の作文がクラス全員に紹介されることは励みであるだけでなく、友だちの作文から刺激を得ることも多いものである。(資料3)
(3)P-mail(2年生との英文メール交換)
以前、2年生の「ライティング」を2クラス担当した年は、両クラスの生徒同士で英文メール交換を行っていたが(注4)、今年度は1クラスしか担当しなかったこともあり、1学年の「英語T」で担当しているクラスと2学年の「ライティング」のクラスとの間で、英文メール交換(E-mailではなく、紙 (paper) によるメールなので、P-mailと名づけている。)を行った。やり方は、まず、2年生に、1年生のクラス名列票を渡し、自分と同じ名列番号の1年生にメールを書かせた。その際、2年生の希望を入れて、匿名でメールを書かせることにした。1年生には誰からメールが来たのか少なくとも最初は分からない状態でメール交換がスタートした。メール交換の過程で、自己紹介をした者もいたようだが、最後まで誰から来たのか分からないで交流を続けている1年生もいた。総じて、2年生は、後輩に自分の英語力を知られたくないと考えるせいか肩に力が入っているように思われたが、1年生は気楽に先輩との交流を楽しむことができたようだった。1学期間にメールを3往復させた。(資料4)
(4)Free Writing (Speed Writing)
授業の最初または最後の2分間を使って、あるテーマについてB5の半分の用紙に、誤りを恐れずにできるだけたくさん英文を書かせる指導を適宜入れている。取り上げるテーマは、その時々でタイムリーなもの、たとえば、連休の後なら“What I did during the holidays”、休み前なら“My Plans for the Vacation”、3学期の最初なら“My New Year Resolution”・・・などのテーマと、タイムリーでなくても書きやすいと思われるテーマ、たとえば“My Family”、“My Hobby”、”My Favorite Book”・・・など、を選んでいる。ストップウォッチを使って2分間という制限時間を設けて書かせるようにすると、生徒は集中して取り組むものである。書き終わると、ペアでお互いの作文を交流させることもある。その後、回収して簡単に添削してから返却するようにしている。共通の誤りがあれば、返却時に全員に説明する。
3.2.3 「OCA」の中でのライティング指導
「OCA」2単位のうち、1単位はALTとのTeam-Teaching(以下、TTと略す)によるLLでのリスニング、スピーキング中心の授業を、もう1単位はJTEによる普通教室での英文法(以下Gと略す)のSolo-Teachingを行っている。
(1) スピーキングテストに向けてのライティング指導
TTでは、年に2回スピーキングテスト(今年度は「自分の大切にしている物の紹介」と「日本独特の物の紹介」)を実施している。生徒は予め英文で原稿を書き、それを練習してテストに臨むことになる。(テスト中は原稿を見ることはできない。)この活動では、ALTに通じる原稿を書くように、言い換えれば、誤りを気にせずに言いたいことを表現するように指導しているが、これまでは原稿の書き方の指導はほとんどできていない。今後は、ライティングの指導(効果的な説明原稿の書き方や、役に立つ表現の紹介など)にもう少し力を入れるべきであろう。
(2) Gにおける短文の作文練習
「英語T」でも行っているように、Gの授業でも「オーラル・コンポジション」と「ディクテーション」を行うことにより、短文を書く練習をさせている。練習に用いる文は、文法の準教科書の例文である。音読練習(Listen & Repeat、Read & Look-upなど)や同時通訳練習(これらの活動はペアでやらせることが多い。)を終えた後で、授業の最後に行うか、次の時間の最初に、前時の復習という意味で、小テストとしてやるようにしている。これまでは、時間の関係で不定期にしか実施していなかったが、できれば毎時間やりたいところである。
(3)Free Writing (Speed Writing)
「英語T」同様、Gでも時間の余ったときなどにFree Writing (Speed Writing) をさせている。この活動についても、これまで散発的に実施してきたが、もう少し頻繁に、計画的に実施したい。
(4)Show & TellやSpeechなどの原稿作成指導
これまでは、時間の関係で行ってはいないが、新カリを契機に、TTでは、Show & TellやSpeech、DiscussionやDebateなどに取り組むようになるかもしれない。そうなれば、さらに一層ライティングの面からの指導をする場面が増えるだろう。
3.3 2学年のライティング指導
3.3.1 概要
2学年の英語の科目は「英語U」と「ライティング」であるが、「英語U」では、上記「英語T」の(1)、(2)と同様の活動を行っているのに加えて、問題集(「トライアングル英語総合演習」)の中にある、各課の文法事項を用いた和文英訳の練習問題を解かせている。しかし、これは問題数が少ないので、軽い扱いになっている。2学年でのライティング指導は、「ライティング」の中での指導が中心になる。「ライティング」2単位のうち1単位はJTEのSolo-Teachingで、もう1単位はALTとのTeam-Teachingで指導している。2学年のライティングの到達目標を次のように設定してみた。
1)1学年のGで一通り学習した文法事項をライティングの観点から見直し、それらを用いて場面や目的に応じて英語で書く(注5)
2)話題ごとに必要な語彙や表現を学び、それらを用いて書く
3)パラグラフ・ライティングの基礎を学び、聞いたり読んだりして学習したテーマに関してや、体験して考えたこと、普段考えていることなどを、パラグラフを意識して文章の構成や展開に留意しながら書く
4)書く能力を活用して積極的にコミュニケーションを図る
3.3.2 Solo-Teaching
Solo-Teachingでは、検定教科書を用いたaccuracyに焦点を当てたInput中心の指導と、そこで学習した事項を用いてパラグラフ・ライティングへの橋渡しをするOutput中心の指導という二つから構成されている。典型的な授業の流れを示すと次のようになる。
Teaching Procedure
1. Greeting
2. Memorization Check (モデル文の暗誦確認または小テストを行う)
3. Model Paragraph
1) Listening Quiz (必ずリスニングで導入するようにしている)
2) Explanation (表現や文法事項、語彙について説明する)
3) Reading Aloud (音読はParallel Reading, Shadowingも行う、またできるだけ暗誦させたい)
4. Sentences for Memorization(説明の後、音読練習する)
5. Vocabulary(各課のテーマに沿った語彙の説明と口頭練習を行う)
6. Exercises (口頭確認または黒板での添削、聞いたことや読んだことについて書かせる問題も含めたい)
7. Various Activities(Speed Writing、One Paragraph Writing、P-mailなどの活動、・・・)
上の授業手順について注意すべき点を補足説明しよう。
1)徹底したInput――Memorization Checkは毎回行いたい。言うまでもなく、OutputするためにはInputが絶対必要であり、モデル文はできるだけ暗誦させたい。語彙や表現を覚えているかをチェックするための小テストもできるだけ頻繁に行いたい。
2)4技能を統合した活動――Listeningや音読(教科書の英文、生徒自身が書いた英文の両方)など、音声を大切にした指導を行いたい。音声指導あっての書く指導であると思うからである。また、そうすることで、4技能を関連させながらの指導が可能となる。
3)教科書からTopic Writingへの橋渡し活動――これまで教科書での学習と、Topic Writingの指導が別個に行われがちであったが、今後はできる限り両者を関連させて、教科書で学習したことを用いて自己表現させる活動(30語から50語程度で、Topic Writingの一歩前の活動)をより多く行うようにしたい。それには、教科書の課題を用いることもできるし、Free Writing (Speed Writing) やOne Paragraph Writingなどの活動を教科書の学習事項と関連させて行うのもよいだろう。
3.3.3 Team-Teaching(TT)
TTでは、ALTの力を、accuracyとfluencyの両方の指導に生かすようにしたい。これまで、TTでは、「教科書またはワークブックの和文英訳問題の添削」と「Topic Writingの指導」を二本柱に行ってきた。
(1) 教科書またはワークブックの和文英訳問題の添削
ALTの力を借りると、和文英訳問題の添削を的確にできるだけでなく、別表現を紹介したり、表現について有益な情報(どちらの表現の方がよく使われるか、スピーチ・レベルやレジスターに関する情報など)を生徒に伝えたりするのがやりやすくなる。この点だけでも、ライティング指導をTTで行う意味は大きい。
(2) トピック・ライティング
毎月のTopic Writingでは、最初の時間にALTに課題(テーマ)の紹介とその課題に取り組む際の注意点の説明をしてもらう。その後で必要に応じて、Useful Expressionsや語彙の説明を加えてもらうこともある。一旦生徒が書き始めると、ALTはJTEと一緒に期間指導をして生徒の質問を受ける。今年度は、各課題で1クラスずつ添削をお願いしている。(他のクラスは、担当のJTEが添削する。)Topic Writingの指導手順は次のようになっている。なお、< > 内は教師の活動を示している。
1時間目 @課題(テーマ)の発表・説明→A構想を練る・書き始める→回収
2時間目 B続きを書く、完成する→回収→<CUnderlining(誤りの部分に下線を引く)>
3時間目 D下線の箇所を中心に訂正する→回収→<ECorrecting(添削)>
4時間目 F添削箇所の確認→Gペアまたはグループでの読み合わせ→<H優秀作品の紹介>
原則として作品は学校で書かせるようにしているので、毎時間回収する。G、Hは毎回行うわけではないが、友だちとの間で発表しあうことは大いに励みになるようである。(注6)
Topic Writingの指導の課題を整理しよう。
1) 課題の精選と目標の明確化――テーマは教科書の学習事項と関連させて計画的に決める。また、各テーマで何を身に付けさせたいのかという目標を明確にし、生徒にそれを周知徹底させる。
2) 要求する作文量の見直し――学年の前半は、B51枚が適当であろう。後半になると、B41枚程度を要求する。
3) 生徒の相互添削の導入――これまでは添削は教員がすべて行ってきたが、生徒相互の添削を取り入れてもよいのではないだろうか。つまり、友だちの作文を読んで、分かりにくいところに下線を引かせる活動(Underlining)をやらせるのは、作者・添削者の両方の生徒にとって得るところが大きいと思われる。
4) Common Errorの抽出とその指導――共通の誤りや特に目に付く誤りについて整理し、Post-Writingの活動として指導するようにしたい。そうすることで着実に減らすことのできる誤りがあると思われる。(上記2の結果参照)
(3) クラス内交流 (Enjoy Writing)
前回、2学年の「ライティング」を担当したときにも行っていた(注7)が、少しでも書く機会を増やし、英語でクラスの友だち同士の交流を図ることを目指して、英語での交換日記のようなノート(Enjoy Writingと称している)を回している。厳密な意味の日記ではなく、生徒はノートが回ってきたら、それまで書いてある内容をすべて読むことと、英語で自由に表現すること、さらに、友だちの書いていることに対して自由にコメントを書いてよいことになっている。教師も毎回英語でコメントを記入している。
(4) コンピュータを用いたライティング指導
1学期最後のTopic Writingは、コンピュータ室で作品を入力させ、文字を飾ったり、挿絵を入れたりして仕上げさせてから、プリントアウトする。そのようにしてできた作品は文化祭でクラスごとに色模造紙に貼って展示している。今後は、できればもっと頻繁にコンピュータ室を利用して、パソコンで英文を書く活動を行っていきたいと考える。パソコンを使うと、スペリングや文法、文体のチェックをしてくれるし、電子辞書を手軽に引くことも可能になる。これまではあまり利用していないが、翻訳ソフトを活用した和文英訳の指導もコンピュータ室(インターネット)を使えば簡単に行えるので、今後は是非取り組んでみたいと考えている。さらに、コンピュータを使ってライティングさせると、電子データとして作品が残るので、添削指導やError Analysisが格段にやりやすくなると思われる。また、以前行っていた海外とのE-mailでの交流(注8)も、今後再び取り組むためには、コンピュータで作文することに慣れさせる必要がある。さらに、英語のホームページを作る活動など、世界に自分の書いた英文を発信する活動を行う際にも必要になってくる。そのためには、コンピュータ室を日常的に使用して「ライティング」の授業を行うような体制を作る必要があるだろう。
(5) 「構文」の参考書
これまで、2年生には「構文」の参考書を自学自習させて、「ライティング」のテストで出題してきた。今後もこのやり方を続けるのなら、授業でテスト範囲の構文をライティングの観点から説明する機会を設けるようにしたい。英語の指導でばらばらにやっていることをできる限り関連させることにより、一層大きな効果が得られると考えるからである。
3.3.4 「ライティング」の授業に関するアンケート結果から
今年度1学期末の2002年7月19日に、「ライティング」の授業に関して、生徒へのアンケートを実施した。その結果の一部を紹介しよう。対象は2年4組40名である。
(グラフ@) (グラフA)
(グラフB) (グラフC)
(グラフD) (グラフE)
グラフ@からDが示すように、生徒は「ライティング」の授業に対してかなりよい評価をしてくれているようである。グラフEで「ライティングの授業にあまり頑張れなかった」という生徒に、その理由を聞いたところ、他の教科に時間をかけ過ぎたため、結果的に「ライティング」に時間をかけられなかったという答えがほとんどであり、来学期は頑張りたいと言う前向きな回答が多かった。
3.4 3学年のライティング指導
3.4.1 概要
3学年の英語の中で、3単位の「リーディング」においては、「英語T・U」と同様、学習した表現や語彙を用いた短文の作文練習と、Post-Readingの活動として、読んだ内容に関する自由作文の指導が考えられる。しかし、「リーディング」は「英語T・U」以上に読むことに集中する必要があるので、ライティングにあまり時間をかけられないというのが実情だろう。従って、2単位の「ライティング」が、ライティング指導の中心にならざるを得ない。しかし、3学年の「ライティング」は2単位の内、1単位は文法・語法の練習問題をやっているので、実際にライティングをやっているのは1単位のみである。また、受験する大学の入試傾向に沿った、課外の個人添削による指導や補習なども3年生のライティング指導の中に必ず含まれる事柄であろう。
3学年のライティングの到達目標を次のように考えてみた。
1) 高校3年間に学習する表現(単語・熟語)や文法事項などを使って正しい英文を書く
2) あるテーマに関して自分の考えなどを効果的に述べるパラグラフやエッセーを書く
3) 読んだり、聞いたりしたことを英語で要約する
3.4.2 問題集(和文英訳問題と並べ替え問題など)
和文英訳の問題集を用いた授業の場合、最も注意すべきことは、生徒が必ず予習をして(自分の英訳をノートに書いてきて)授業に臨んでいるかを確認すること、もしも、そうでないことが分かればきっちり指導を入れることである。
「ライティング」の授業では、生徒から英語の表現などに関してさまざまな質問を受けることが多いが、授業中にそれらすべてに答える時間的余裕がないのが実情である。そこで、毎回B5の半分の大きさの質問用紙を配布して、質問や相談したいこと(英語学習上の悩みなども)それに記入して提出させている。次の時間までに一人ずつに返事を書いて返却する。これは、生徒の躓きや弱点を知るのに役立つだけでなく、教師と生徒の1対1のコミュニケーション(=集団指導の中での個人指導)を可能にしてくれる。
ある種のライティングの問題と言える「並べ替え問題」・「連立完成問題」や、最近入試でよく出題されるようになってきた「自由作文・条件作文問題」などにもできるだけたくさん取り組ませ、多様な形式のライティングの問題に対応できる力をつけさせたい。
3.4.3 和文英訳練習と課題作文練習
これまで、3年の「ライティング」のうちの1単位では、ほとんどの時間を和文英訳の問題集の指導に充ててきた。その結果、2学年で取り組んだTopic Writingも3学年ではほとんどやらないために、せっかく伸ばしてきたパラグラフ・ライティングの力が停滞(または退化)してしまう恐れがあった。また、授業自体も、和文英訳の問題を解くだけでは単調になりがちであった。これらの問題点を改善するために、昨年度は授業時間の最初の10分から15分を、和文英訳の問題集から離れて、プリントでの学習をすることにした。内容は、国公立の二次試験対策を兼ねた「和文英訳練習」(資料5)と「課題作文練習」(資料6)である。やり方を略述しよう。1)毎時間どちらかの問題を用意し、制限時間を決めて解かせ、途中であっても時間が来れば回収する。2)次の時間までに間違いの部分に下線だけを引いておく。(添削をすると多くの時間を要するが、下線を引くだけなので、短時間でできる。)3)次の時間の、最初の5分程度を使って、答案を返却して模範解答を提示し、併せて共通の誤りについて解説する。「課題作文練習」については、模範解答例または生徒の優秀な答案をプリントにして配るようにした。これらの活動には生徒が集中して取り組み、たいへん好評であった。
3.4.4 個人添削指導と補習
国公立や私立の難関大学を受験する生徒に対しては、個人指導がどうしても必要になる。年度によって数に変動はあるものの添削指導を頼みに来る3年生は少なくない。実際、昨年度の場合、添削指導をしている生徒が10人を超え、正直なところかなりの負担であった。今後は、同一の大学を志望している生徒が多い場合は、個人添削の代わりに大学別の補習を設定する方がよいかもしれない。
近年、インターネットや携帯電話、ファックスの普及に伴って、E-mailやファックスで添削を求めてくる生徒増えてきた。特に、E-mailでの添削指導は、電話などと比べて時間や相手の都合を気にせず返事ができるので便利である。
4. ライティングのシラバス試案
以上述べてきたことを基にして、最後に3年間のライティング指導のシラバス(試案)を示したいと思う。
ライティングのシラバス(試案)
1学年:
目標
1)「英語T」や「OCA」で学習した表現や文法事項、語彙などを用いて短文を正確に書く
2)聞いたり読んだりして学習したこと、体験して考えたこと、普段考えていることなどについて、誤りを恐れずにある程度の量の英文で書く
教材 検定教科書〈「英語T」〉、長文問題集、文法の準教科書・ワークブック、単語集
実践例
英語T: 「オーラル・コンポジション」と「ディクテーション」/
Post-Readingの活動としての作文課題
P-mail(2年生との英文メール交換)
Free Writing (Speed Writing)
OCA: スピーキングテストに向けてのライティング指導
文法の準教科書の例文を用いた短文の作文練習
Free Writing (Speed Writing)
Show & TellやSpeechなどの原稿作成指導(ALTの協力)
評価 1学年で行う活動はすべて平常点に加味するが、点数をつけて縛ることはせず、ライティングの活動にできるだけ楽しく伸び伸びと取り組ませたい。
P-mailは評価の対象にしない。
2学年:
目標
1)1学年のGで一通り学習した文法事項をライティングの観点から見直し、それらを用いて場面や目的に応じて英語で書く
2)話題ごとに必要な語彙や表現を学び、それらを用いて書く
3)パラグラフ・ライティングの基礎を学び、聞いたり読んだりして学習したテーマに関してや、体験して考えたこと、普段考えていることなどを、パラグラフを意識して文章の構成や展開に留意しながら書く
4)書く能力を活用して積極的にコミュニケーションを図る
教材 検定教科書〈「英語U」、「ライティング」〉、三位一体問題集、単語集、構文集、
ライティング問題集
実践例
英語U: 「オーラル・コンポジション」と「ディクテーション」/
Post-Readingの活動としての作文課題
Free Writing (Speed Writing)
ライティング:モデル文の暗誦
表現、語彙の確認テスト
口頭練習(Substitution・Expansion DrillsなどのMechanical Drills)
「オーラル・コンポジション」
ALTとの和文英訳の添削指導
Speed Writing、One Paragraph Writing、P-mailなどの活動
英文交換日記、長期休暇中の宿題としての英文日記
Topic Writingと作品の発表
コンピュータを活用したライティング
翻訳ソフトを用いた和文英訳の指導
「構文」の参考書を利用した作文指導
評価 「英語U」での活動は平常点に加味する。
「ライティング」の作文課題(特にTopic Writing)は点数化し(注9)、他の活動は平常点に加味する。
3学年:
目標
1) 高校3年間に学習する表現(単語・熟語)や文法事項などを使って正しい英文を書く
2) あるテーマに関して自分の考えなどを効果的に述べるパラグラフやエッセーを書く
3) 読んだり、聞いたりしたことを英語で要約する
教材 ライティング問題集、文法語法問題集、センターテスト用問題集
実践例
リーディング:「オーラル・コンポジション」と「ディクテーション」/
Post-Readingの活動としての作文課題
ライティング:問題集を用いた和文英訳と並べ替え問題・連立完成問題など
和文英訳練習と課題作文練習
入試問題を教材にした添削指導、補習
評価 小テストや提出課題は全て平常点に加味する。
(注1)表中の「Becauseの用法」とは、“Because S + V”を独立した文として書く誤りである。
(注2)今年度使用しているSunshine English CourseTでは、Lesson 1で、「受け身表現」、「関係代名詞who, whichによる形容詞節」、「現在分詞による形容詞句」、「目的語の働きをする名詞節」が取り上げられている。
(注3)Post-Readingの活動として、読んだ内容に関して生徒に自分の考えや感想などを作文させる実践については、本校英語科島教諭の実践から学ぶところが多いことを記しておきたい。
(注4)英文メール交換の実践については、「ダイナミックなライティング指導の試み」(京都教育大学附属高校研究紀要第62号)の3の4)のb)「クラス間交流(メール交換)」を参照されたい。今回も前回の実践同様、教師は純粋にメッセンジャーに徹して、添削したりしない。生徒にそのことを最初に伝えておくことが大切である。
(注5)ここで言う「文法」は、ライティングのための文法(表現文法)と機能文法の両方を意味している。従って、1学年のGで学習した文法の繰り返しではないことに注意。
(注6)Topic Writingで完成した作品を発表しあう活動については、本校英語科磯部教諭の実践に学ぶところが多いことを記しておきたい。
(注7)クラス内交流については、「ダイナミックなライティング指導の試み」(京都教育大学附属高校研究紀要第62号)3の4)のa)「クラス内交流(Chain Diary)」を参照されたい。
(注8)海外とのE-mailでの交流については、「ダイナミックなライティング指導の試み」(京都教育大学附属高校研究紀要第62号)3の5)「e-mailでの国際交流」を参照されたい。
(注9)Topic Writingの評価は、A+ / A / A- / B+ / B / B- / C+ / C / C- / Dのいずれかをつけて返却している。A+ の10点からDの1点まで、10段階で評価している。すなわち、Topic Writingは1回につき、10点満点で評価しているわけである。
5. 参考文献
文部省(1999)『高等学校学習指導要領解説』(外国語編、英語編)
鈴木文子他(2000)「中高6年間を見通したシラバスの作成(1)―リスニングのシラバス」
『筑波大学附属駒場中・高等学校研究報告集第39集』
寺田恵一他(2001)「中高6年間を見通したシラバスの作成(2)―スピーキングのシラバス」
『筑波大学附属駒場中・高等学校研究報告集第40集』
八宮孝夫他(2002)「中高6年間を見通したシラバスの作成(3)―リーディングのシラバス」
『筑波大学附属駒場中・高等学校研究報告集第41集』
高田哲朗(1997)「ダイナミックなライティング指導の試み」『京都教育大学附属高等学校研究紀要第62号』
(資料1)「トピック・ライティング」の実例(4月の課題と2月の課題の比較)(省略)
(資料2)ディクテーション専用の解答用紙として次のようなものを用意している。
Dictation Card class( ) NO( ) name( )
(4文用ディクテーション用紙)
(資料3) 「英語T」におけるPost-Reading活動としてのライティングの課題例
(ワークシートの質問例)
教科書の場合:
Lesson 1 「P. 5の最後の文 “What do you think?”に対するあなたの答えを英語で書きなさい。」
Lesson 3 “Why don’t you write your impression or opinion about this story in English?”
Lesson 8 “Why do you think one lady from the church stopped in shock? Write your answer in English.”
長文問題集(Key Topic SelectionT)の場合:
Lesson 2 “Write your idea about ‘paradigm’ or ‘paradigm shift’ in English.”
Lesson 6 「この英文の内容に関するあなたの考えを英語で書きなさい。」
Lesson 12 “Is there anything that you do every day to stay healthy?”
Lesson 18 “What is your opinion about the idea that we have no right to let a person’s heart stop beating, even if his brain can never work again? Write in English.”
(資料4)P-mailによる学年間交流の例 (省略)
(資料5)「和文英訳練習」のワークシート例
和文英訳練習 NO. 11 class( ) NO( ) name ( )
人が物と違うのは、物は人の役に立たなければ何の価値もないが、人は社会の役に立つかどうかに関係なく、存在価値があるという点です。 (大阪大)
解答欄
(資料6)「課題作文練習」のワークシート例
課題作文練習 NO. 4 class( ) NO( ) name ( )
与えられた書き出しに続けて,近年の日本によける「少子化」(女性が生涯に生む子供の数の減少)の原因を述べるパラグラフを書きなさい。
The
birthrate in
解答欄